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「そう? そんなに重たくないけど」
「いえ、テクニックが。私、運転がいつまで経ってもへたくそで。さっき台車押していても何度もあちこちぶつかりかけては、後ろに下がって切り返して、ああ、台車の運転すらへたくそなんだなって、今……堀川さんの運転見て思いました」
……台車の運転を褒められたところで、心中複雑だが、確かにエレベーターを下りたところまででいいかと彼女にハンドルを握らせると狭くはない廊下で何度も壁に寄っていくものだから、追いかけて再び俺が運転した。
「ドアだけ、開けてくれる?」そう言って。
目的地に着くと、なるほど、と思うほど経理部の空気は殺伐として、俺がここへ来たところで誰も気づかないくらいだった。
山内さんには何度も礼を言われ、こちらとしては恥ずかしいくらいだった。
帰りのエレベーター、真木が合流や車庫入れが苦手だった女性に声を掛けたことを思い出した。
……なるほどな、悪い気分じゃあ、ない。だけど、俺に下心はない。
なぜかというと彼女はもう俺に惚れていて、俺が手を貸したのは、たまたま……(俺のことを好きな)山内さんだけのことだったからだ。
俺が手伝った事で、彼女が俺に惚れることはない。だって、もう彼女はもう既に俺に惚れているのだから。
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