たぶん、こっち

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 台車代行の後日    山内さんから 「この前、助かりました。お礼が遅くなりましたけど」そう言って、会社で紙袋を手渡された。 「礼をされるほどの事は」と断りを入れたが横にいた真木が、「いいじゃん」と彼女に加勢したのでそのまま受けとることにした。  最も、こうやって人前で渡すのだから、そんな大それた物ではないのだろう。“ちょっとしたお礼”程度のもの。  それにしても、俺が確認する前に、真木がパッと取ると中身を見て    「お、いい香り!」うっとりと言った。  確かに、紙袋を開けた瞬間、中身が何であったかを聞かなくても分かるほど、香りが鼻腔へ届いた。 「……コーヒー」 「そ、しかも豆」    パッケージは某有名店の……コーヒー豆。   「いい香りだな。だけど……」 「ダークロースト。酸味少ないやつ、いいねえ」 「お前、貰うか?」    そう言った俺に真木は顔をしかめた。 「お前なあ、せっかく志乃ちゃんがくれたのに」    あ、そうか。そんなつもりはなかった。単純に……   「いや、俺の家、ミルも全自動のコーヒーメーカもないんだ。いつも買うときは豆はペーパー用に挽いてもらってる」   「ああ、なるほど。つまり、逆に言うと、志乃ちゃんちには、ミルか全自動のコーヒーメーカーがある」    ニッ、と笑って真木が俺の胸にドンとげんこつをぶつけた。
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