たぶん、こっち

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「苦めのコーヒー、これって、チョコに合うと思わね?」 「そうだな。彼女にそのまま返すのも悪いし、チョコをつけて返すか」    人は自分の好物を人に送る傾向がある。彼女が好きなコーヒー豆なら、彼女か飲めばいい。ただ、突き返すようで申し訳ないので、そうしようと思った。    のに、    真木は心底呆れ顔だ。何となく、こいつのこんな顔は苛立ちを覚える。   「馬鹿?」  脊髄反射的に“お前よりマシだ”と言いかけて、小学生でもあるまいしと飲み込む。    代わりに面倒臭いと伝わる視線を返した。   「あのなあ、そこのショップ持ってって豆挽いてって頼んだら挽いてくれるわ! 」 「……じゃあ、そうするか」   「馬鹿?」 「お前よりマシだ」二回目の馬鹿には思わずそう答えた。   「お前が彼女に言うべきは、チョコ片手に……」 「反対の片手には豆だろう?」 「……絵面が悪いな。お前が言うべきは“俺んちミルがないんだ”って事だけだ」   「はあ、わかったそうする。チョコ買って彼女の仕事帰りにでも渡す」 「……わかってない! そこからが大事だ、いいか?」   「何だよ、俺が言うべきは、ミルがないってことって言っただろ、お前」   「はあ、馬鹿馬鹿馬鹿。だから、“一緒に”って言えばいいだろ」    真木の言うのはこうだ。  彼女の家に招待されるように仕向けろと。
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