783人が本棚に入れています
本棚に追加
「苦めのコーヒー、これって、チョコに合うと思わね?」
「そうだな。彼女にそのまま返すのも悪いし、チョコをつけて返すか」
人は自分の好物を人に送る傾向がある。彼女が好きなコーヒー豆なら、彼女か飲めばいい。ただ、突き返すようで申し訳ないので、そうしようと思った。
のに、
真木は心底呆れ顔だ。何となく、こいつのこんな顔は苛立ちを覚える。
「馬鹿?」
脊髄反射的に“お前よりマシだ”と言いかけて、小学生でもあるまいしと飲み込む。
代わりに面倒臭いと伝わる視線を返した。
「あのなあ、そこのショップ持ってって豆挽いてって頼んだら挽いてくれるわ! 」
「……じゃあ、そうするか」
「馬鹿?」
「お前よりマシだ」二回目の馬鹿には思わずそう答えた。
「お前が彼女に言うべきは、チョコ片手に……」
「反対の片手には豆だろう?」
「……絵面が悪いな。お前が言うべきは“俺んちミルがないんだ”って事だけだ」
「はあ、わかったそうする。チョコ買って彼女の仕事帰りにでも渡す」
「……わかってない! そこからが大事だ、いいか?」
「何だよ、俺が言うべきは、ミルがないってことだけって言っただろ、お前」
「はあ、馬鹿馬鹿馬鹿。だから、“一緒に”って言えばいいだろ」
真木の言うのはこうだ。
彼女の家に招待されるように仕向けろと。
最初のコメントを投稿しよう!