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真木とのやりとりがなければ、単純に
そうか、コーヒー好きなんだね。くらいに返しただろうか。深読みし過ぎてもよくないと、少し間を置いて
「本当は、飲む寸前に豆を挽くのがうまいんだろうね」とだけ返した。
「そうですね、部屋にコーヒーの香りが充満して、とても幸せ」
彼女の『とても幸せ』と言った顔に、俺もミルを買うか。せめて休日の朝くらい、その幸せに浸ってもいいかなと思う。
「いいね、そういうの」
俺がそう言うと、彼女は足を止めた。
初めて彼女と話したビアガーデンの帰り道、急な告白に足を止めたのは俺の方だった。この日、足を止めたのは、彼女だ。
「コーヒー、飲みに来ませんか?」
そう言われて、動揺したのはこの日も俺だけだったかもしれない。
再び歩き始めた俺に寄り添って、彼女は小さな声で言う。
「まだ、お返事頂いてませんし」
……返事が必要な感じだったか?と、記憶を辿る。
だけど、そうだな、俺もこの日は彼女に……
「俺もこの電車なんだ」と言えた。
彼女が笑う。
「じゃあ、少しくらい遅くなっても大丈夫ですね」
彼女の手からコーヒー豆の入った紙袋を取って抱える。
コーヒーのいい香りがする。挽いたらもっといい香りなのだろうなとぼんやりと思った。
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