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真木とのやりとりがなくても、部屋に入ればそれが女性にとって「OK」のサインだ、などと思わない程度には教養があった。経験と、年齢によるものだが。
だが、真木とのやりとりがなければ、もう少しこの状況を心穏やかに過ごせたかもしれない。
山内さんの部屋は綺麗に整頓され、そこにあったのはミルではなく全自動のエスプレッソマシーンだった。
随分、本格的なのだな。そう思っていたら豆を砕く音がして、部屋にコーヒーの香りが広がった。
「外国の家電って繊細さがないんですよね」豆を砕くあたりから、カップにコーヒーが落ちるまで、結構な音に驚いたのは確かだ。
「でもね、美味しいんですよ」彼女はそう言って微笑むと俺の前にカップを置いてくれた。
均等にクレマが表面に浮かび、一口飲んで
「うまいね」と口にした。
「ね?」
彼女は満足そうに微笑んだ。
それにしても
「綺麗に片付いてるね」
あまり見ては失礼だろうが、パッと見でわかるくらいこの部屋は綺麗だった。
「昨日ね、頑張って片付けたんです」
「……昨日? なぜ? 」
「さあ、何となく……?」
彼女は柔らかく微笑むと、コーヒーを一口すすった。
美味しい、と幸せそうに息を吐いた。
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