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志乃は、真木のイメージする経理部の女性的なファンタジーはともかく、ギャップという意味では、会社といる時とは違いよく喋り、よく笑う女だった。
真木の面倒臭いものとは違い、どうでもいいような事を楽しげに話す志乃を見ているのはとても心地がいい。
「どうでもいいんでしょ」話す途中で、志乃は少しむくれるようにそう言ったけれど
「まさか」と返事をする。
話してる内容は確かにそうかもしれないが、志乃の事はずっと見ていたい。
だから、どうでも良くはないのだ。
志乃とのこんな時間が好きだった。
なんてことない、会話が好きだった。
──例えば……明日死ぬとしたら
「最後の晩餐は何がいい?」そんな話。
「何かな」
と、考えてみる。本当に何が食べたいかと、それから、どう答えたら彼女にとってベストかというちょっとした心遣いなのか、これも駆け引きか。結局よくわからないので、そのまま答える。俺はどのみち気の利いたことも言えない。
「普通の夕食……」結局、そんなのが一番いい気がする。メインがあって、サブがあって、ゆっくりビールが飲めるような。
「私はね、カイワレ大根!」
……カイワレ?
「……なぜ?」
「あはは! その顔」
それは、そうなるだろう。
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