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Day 44 / Returning home
そんなわけで、
超弩級の無茶振りの連続だった
カシュガラ現地調査が終わった。
盗掘していたヨーロッパ企業の作業員二人と買収された警官らは、逮捕時は極度の脱水で瀕死の状態ではあったが、命に別状はなく、F国警察に現行犯で逮捕。警察の医務室に収監された。体調が回復次第、厳しい取調べが待っているとの事だった。
三人はツァーリが去った後にフェムナ署での事情聴取に呼ばれた。
ヤンが極秘裏に引き止め交渉から誘拐までの一部始終を録音していたのと、買収された武装警官の証言で、三人の無罪が証明されたと同時に、日本企業チームの—実際はトモの—提供したGPSのログによって、今まで解明できなかった盗掘までのプロセスの全貌が明らかになり、F国役人も日本企業も面目躍如で大喜びだ。この件をきっかけにGPSシステムの導入が本格化するらしい。
署長曰く、カシュガラに限らず、F国の辺境の盗掘事件や、それを巡る銃撃事件は絶えないとの事だった。それ故に武装警官より軍の派兵を望んだのは、他ならぬ当該地域の武装警官を管理するフェムナ署長だ。
F国で盗掘が重罪と知ってもなお、そこに人を駆り立てるのは、一攫千金を狙うドラマチックなロマンでも、冒険ドラマのそれでもない。それは欲望であり、権力だ。経済基盤が脆弱な国に於いての、困窮から、束縛から逃れる強いカードなのだ。
その金は貨幣を対価に世界を巡り巡って日本にまで届いていると思うと、祥は複雑な思いに駆られる。この世界に生きる以上、犠牲は多寡あれど不可避だ。状況の共犯でありながら、その見えぬ犠牲に対し、自分はどこまで思いを寄せて来ただろうか。
イマームから受け取った金塊は、身につけたアウトドアベストの内ポケットに突っ込んだままだ。その重さが、問いの重量感に祥は思えたのだった。
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