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「…何と!」
バンケットルームだけがいきなり重力が変わったように思えるほど、重圧と沈黙が続く。ツァーリは絶句して祥を見、直後リタとカリムを凄い形相で睨むと厳しい怒号で責め立てた。
「おまえたち、知っていたのか!」
その言葉に、祥は二人を守ろうと必死に嘘を吐く。
「ここはF国です!同性愛に理解が無く、人目に関係を晒せば逮捕されます。その意味を知りながら俺とダーチャは人目を忍んで付き合って来ました。二人が知るはずはありません!」
ツァーリは汚いものを見るかの如く祥を睨み、顔を歪め、唾棄するように叫んだ。
「もうおまえの話など、聞きたくもない!」
嘘を吐いてまで自分を守ろうとする祥を、拳を握り締めじっと静観していたリタは、その一言で、遂に堪忍袋の尾がキレた。
「いいえツァーリ!あなたはショーの話を聞く義務があります!」
ツァーリはリタの気迫に押され、唖然としてリタを見る。
「リタ…?」
「勝手ながらご進言申し上げますと、アレクセイは、誰に言われるでも無く、自分自身の選択として、犯人の車に乗りました。
大きな判断ミスを犯しながらフェムナに戻れたのは、ひとえに類稀なショーの知性と誠実さに依るものです。
悪魔の証明のような、簡単には疑いをはらせぬ環境で、彼は、あなたの愛するアレクセイを護るため、最善の行動を常に取った結果、ここにいるのだ、と言う事実をお忘れにならないでください。
ショーは、アレクセイの恋人であると同時に、彼の命の恩人です!」
ツァーリは意外にも気迫に呑まれ、ピシャリと厳しく忠言するリタの勢いに押されて口を噤んだ。
その瞬間、パジャマ姿のダーチャが、バンケットルームに飛び込んで来た。
「ツァーリ、お願い!ショーを責めないで!」
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