203人が本棚に入れています
本棚に追加
「アリョーシャ!」
ツァーリはダーチャの許へ駆け寄ると、ぎゅっと抱きしめ頰ずりをして軽く唇を重ねた。
「ツァーリ!」
ダーチャも愛する祖父に再会できたことが嬉しかったようで、祖父のキスを当たり前のように受け入れている。
「おまえが行方知れずになり怪我したと聞いて、気が気でなかったよ。本当に無事で良かった。」
「ツァーリ、心配かけてごめんなさい。」
ダーチャはツァーリに再度キスをして詫びた。
「…。」
祥は呆然として家族の再会劇を見つめている。
ちょっと待て。
なんだよ、これ。
いくら溺愛されてるからとは言え
普通、成人した孫とガッツリ、
マウスツーマウスでキスするか?
実は、この二人、
ただならぬ関係とか?!
ってか、アリョーシャって!
アレクセイじゃないのかよ!
何でまたいきなり謎属性増えてんだよ!
祥が密かにパニックに陥ったと気づいた、カリムがそっと側に寄って来て、こっそり耳打ちする。
「ただの習慣。ダーチャの恋人は君だけだから安心して。アリョーシャはアレクセイの愛称。ロシアでは親しい間柄だと愛称で呼ぶんだよ。」
ダーチャの、人との距離感が狂っている理由は、元来の性格に加え、ロシアの習慣が関係している。ロシアでは、身内に限らず親しい間柄だと、男性同士でも挨拶の際、普通に抱き合ってちゅっ、とキスをする。ロシア人のダーチャとツァーリにとっては、ただの習慣だが、事情を知らない外国人には衝撃の光景だ。
F国はロシア人への深い理解がある。何と言っても、F国はかつてロシアだった地だ。習慣を知らぬはずがない。
こんなホモソーシャルな習慣がある癖に、ロシアでの同性愛者へ向ける目線はかなり厳しく、ヘイトクライムによる殺人事件も起きている。当然の如く、ツァーリは祥にいい感情を持っていない。ダーチャを溺愛している分、尚更だろう。
もう、隠し通せぬと祥は関係を大っぴらにしてしまったが、自分とダーチャの間にある、異文化という最も大きな壁をいま、目の当たりにし、なす術も無く立ち尽くす他はなかった。
最初のコメントを投稿しよう!