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皆が固唾を飲んで見守る中、ダーチャは必死でツァーリを英語で説得する。
「ツァーリ、ショーは悪くないよ。リタの言う通り、僕が悪いの。」
必死に弁明するダーチャを見たツァーリの表情が翳る。それは怒りというより、深い悲しみのように見えた。
「アリョーシャ、あの男と恋人同士と聞いたが、本当か?」
ダーチャは顔を歪めて頷いた。
「…ツァーリ、悲しませてごめんなさい。男の人を好きになっちゃいけないって分かってても、どうしても僕、ショーを好きになるの、諦め切れなかった。」
ダーチャは、ツァーリを傷つけたことを詫び、済まなさそうにぼろぼろと涙を零す。ツァーリはダーチャを抱き締め、悲しそうに呟く。
「…どこの馬の骨とも知れぬ、あの男がいいだなど。」
ダーチャはまるで子供のように泣き噦り涙を手の甲で拭いながらツァーリを説得する。
「…ショーがいい。もう、ショーじゃないと、ダメなの!」
ツァーリはダーチャの肩を揺すり、
正気に戻れ、と語りかけた。
「アリョーシャ、おまえはいずれロシアに戻り、私の事業を継ぎ働かねばならぬ。それは分かっているのか?」
ダーチャは涙を拭うと、しゃくり上げながら答えた。
「分かってるよ。F国で僕がずっと学んできたのが何のためかってことも、これから自分が何をするのかも全部分かってる。」
ツァーリは暫し黙ったのち、口を開く。
「分かった。おまえを怪我させた件は、不問にしよう。」
「スパシーバ、ツァーリ!」
ダーチャは嬉しそうにツァーリにキスをしてぎゅっとハグをすると、溺愛する孫からの直球の愛情表現に、ツァーリは目尻を思いっきり下げた。
続けて、ツァーリはダーチャをぎゅっと抱いたまま、厳しい顔に戻り祥に告げる。
「そこの男。アレクセイと、リタの言葉に免じ、おまえの望みを叶えてやる。
但し、ひとつだけだ。」
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