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祥は、挑むようにツァーリを見据え言う。
「パジャールスタ、ツァーリ。
どうか、お願いです。
あなたのアレクセイに、自由に何処の国にも行ける、翼を与えてやってください。
カリムから聞きました。
彼は、この国から自由に出られないと。」
ツァーリは唖然として祥を見る。
「…若造、本気か。」
祥は毅然として答えた。
「本気です。」
ダーチャは祥に駆け寄り、幼い子供のように泣き叫んだ。
「やだ!ショー、やだよ!そんなんじゃ、離れ離れになっちゃう!僕とずっと一緒に居たいってツァーリに言ってよ!」
ダーチャのその叫び声に、祥は身を引き裂かれる思いだ。俺だって、こんなの、望んでやしない。俺だって、ずっと一緒に居たい。
でも、二人の未来がそこには無いのなら
新しく未来を作るほかは無い。
そこに、運命を懸けるしか、残る道は無い。
祥は涙を滲ませて、詫びた。
「辛い選択をさせてごめん、ダーチャ。」
祥はダーチャの涙を優しく手で拭い、そっと抱きしめ、宥めるように額にキスをし、その真意を真摯に告げた。
「これは俺の我儘だ。
おまえが籠の鳥で居続けるのを知りながら、ずっと一緒に居る事に、俺が耐えられないんだ。
ダーチャ、
おまえを愛しているからこそ
おまえを自由にしてやりたい。
ずっと一緒にはいられないかも知れないけど
技師として、F国に居ても、日本に居ても、
他の国に飛ばされても、
おまえが俺の場所へ飛べばいい。
会いに来ればいいんだよ。」
神さまは意地悪だ——
祥の腕の中で、自らの運命を悟ったダーチャは、祥に縋るように慟哭し、泣き崩れた。
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