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ツァーリは愕然として祥を見る。
ダーチャと一緒に居たい、必ずそう言うと思っていたからだ。それだけではない。ダーチャを自由にしろ、とも。
そして何より愛する孫が、自分から離れて行くなど考えられない、そんな表情だった。
ダーチャをしっかりと胸に抱き、祥はツァーリを見た。
「ツァーリ。
何故アレクセイがこんなにも純粋に育ったのか、ツァーリの姿を拝見して分かったような気がします。
カシュガラで誘拐され、俺は痛感しました。
富や権力を巡る抗争の場に身を置けば、見たくないものを見、聞きたくないものを聞き、言いたくない事を言わねばなりません。
その時の俺の救いになったのは、アレクセイ—俺にとってはダーチャ—が側に居てくれた事、ヤンが支えてくれた事でした。リタは俺が恩人だって言いましたが、俺から見れば、恋人のダーチャも、相棒のヤンも俺を救った大切な恩人なんです。
ただ側に居るだけで癒されるダーチャを、目に入れても痛くないほど溺愛してしまう気持ちは、とても良く分かります。
ツァーリがダーチャをF国に留め置いたのは、いつでも会おうと思えば会える距離だからではありませんか。」
ツァーリは冷たい目で祥を一瞥する。
「何が言いたい?」
「俺は、ダーチャを自由にする事で、ツァーリの元へも自由に飛べるって思うんです。」
ツァーリは苦笑すると、手を払う振りをして言う。
「若造が知った口を。もういい、去れ。」
祥は涙を拭くダーチャに優しくキスをする。
「ダーチャ。俺は部屋で待ってるから、ツァーリとゆっくりしておいで。」
ダーチャは頷くと、ツァーリに駆け寄り、ぎゅっとハグをした。
「僕は何処にいても、ツァーリの事は絶対に忘れないよ。ツァーリの孫だから。世界のどんなところに居ても、何かあったら直ぐに飛んで行くよ。」
「アリョーシャ…。」
ツァーリの目に涙が滲んだ。それは肩書きの消えた、孫を思うひとりの老人の貌だった。
「僕、ツァーリのこと、大好きだもん。」
そう言ってキスをし抱く孫の腕は、がっしりとした大人の男のそれなのに。ツァーリの脳裏に、小さなダーチャが自分をぎゅっと抱く幼き姿が重なって見えたのだった。
ラストシーンのイメージイラストです。
宜しかったらどうぞ。
https://estar.jp/pictures/25712089
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