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Day 0 / X-day
「水上、今すぐ部長室に行け。部長がお呼びだ。」
長時間に亘る、大会議室での有名建築家との合同プロジェクト会議が終わり、一服して部署に戻ったと同時に課長に声をかけられた。
不安そうな顔を隠さない課長に詰め寄られ、祥は思わず顔を背けてしまう。
「で、部長に何やらかしたんだ、お前?」
「え?」
祥は思案する。
部長とは滅多に顔を合わせない。先程会議に参加した際、課長と一緒に挨拶したくらいだ。挨拶の言葉遣いも問題はない。末席の祥に議会の発言権は無いし、かと言って、呼ばれる理由が何かも思い当たらない。
「いえ、さっき、会議室で課長と一緒に挨拶したじゃないですか。あれ以前もあれ以降も、部長と話す機会なんて無いですよ。」
課長は安堵の息を漏らす。
「そうだよな、俺もそう思ってたんだよ!」
課長は自分の部下のミスを部長に叱責されるのではないかと、その事を心配していたようだ。
「まあとにかく、何か障ることをしたのなら、どんなに理不尽だろうときっちり謝ってくれ。いいな!」
無茶振りとしか思えない依頼に、気の進まない返事をするが、はっきりとイエスを言わされるまで同じ質問が続く。
この会社は一流企業でありながら体面を重視しヒエラルキーを第一に考える、前時代的な社風の超体育会系企業だった。
祥はこの社風に何年もどっぷり浸かり、今やこのやり取りも疑問に思わなくなっていた。
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