203人が本棚に入れています
本棚に追加
部長室は部署の上階にあり、上下関係をあからさまにしていた。部長クラス以上には専属の秘書が付き、部長室に入るには秘書を通さねばならなかった。
「部長、土木事業部2課の水上さんです。」
華やかなフレグランスをつけた美人秘書に連れられ、部長室に入る。デスクの、革張りのチェアに部長は座っていた。秘書が一礼し、席を外すと勿体ぶった口調で話しかけた。
「おう、来たか。」
和やかな世間話もなく、一兵卒の如く機微に祥が頭を下げると、部長は満足そうに笑う。
「まあ、顔を上げ。」
「失礼します。」
挨拶もそこそこ、要件は唐突に始まった。
「君、ウチの会社がお上と一緒に海外の発展途上国支援やってんの、知ってるだろ?」
この場合のお上は、国交省でなく外務省の事だ。官民合同の海外事業プロジェクトは、花形の海外事業部が担い、土木は技術提供以外に縁がない。
「はい。社報を拝見しました。」
「昨日な、そこのお大尽と会食してな。お大尽が上級顧問として名を連ねる国際NGOはおまえも知ってるだろう。今、地下資源の豊富なF国でガンガン掘ってくれる、フレッシュな掘削技師が必要なんだと。」
「はあ…。」
部長の意図が全く読めない。
最初のコメントを投稿しよう!