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秘密基地を作ろう!
この時代、クイズ番組などでは、クイズ研究部の学生諸氏が、銀河系連合に加盟している星々をどれだけ言えるかなどといった記憶力を競い合わせたりして、種族を問わず、その若き青春の燃える魂を、眼鏡の向こう側で光らせては、ぶつけ合ったりしたものだが、共にかつては銀河の宗主国をうたった国の生まれではあるというものの、黒髪の乙女は、たった、つい最近まで、剣も握った事のない、単なる片田舎の女子高生でしかなく、赤毛の乙女にいたっては、拡がる一方の連合の加盟地域の歴史のただ中で、永いこと取り残されて眠り姫をしていた者である。未知の星で出会った猫耳の乙女、ルーシーは、彼女たちにとっては、言わば、初の、遠い、遠い、異星人の仲間であった。それが気さくでフレンドリーな性格とくれば、広大な宇宙空間の中、年ごろのガールズトークが更に華やぐことになる事に、そんなに時間のかかる事もなかったのである。今や、宇宙船は、外まで聞こえるほどの笑い声すら聞こえてくるではないか。
「うちらは太陽系、知ってるよー」
かつてタケルが握っていた操縦棹を鮮やかに操作する中、テオがその見事な運転さばきを誉めると、屈託なく「Thank you〜」などとアメリカ英語の発音で謝意を表しながら、ルーシーは語り続ける。
「けど、モモとクーからしてみたら、そうだよねー。Galaxyはひろいもんねー。まぁ、ちょっと、いろいろこみいった事情もあるんだけどさ~……」
聞けば、バウーフ星は、「純血種」と呼ばれる「純血主義」の国々と、ルーシーたちなどのような「混血種」たちによる「融和主義」の陣営で分かれ、いつも睨み合いばかりしているのだという。
「『冷戦』なんて言い方、しててね~。なーんか、ちょっとどっか毎日ピリピリしてるかな~」
猫耳乙女はそう言うと、ちょっと、肩をすくめてみせたりしたが、
「……うん。けど、いい星だよ~」
少し自らに言い聞かせるような語感もあったが、その顔は、変わらず笑顔で、つられて金髪の猫耳もクルリと回ったりするのであった。
「……ところで、ルーシー、さんの、あの、違う人に変わっちゃうの、すごいねっ! バウーフの人たちは、皆、あんなコトができるの?」
モモは、気をきかし話題を変える事にした。すると、ルーシーはクルリと振り向き、
「そんな年も変わらないんだし~。Lucyで、No Problemだよ~」
つい、長幼の序で構えてしまうのは生まれたお国柄もあるのだろうか。黒髪の乙女の気づかいを前に、大きな碧眼の瞳は、フランクな姿勢を崩すこともなく答えて、
「ううんっ! ワタシだけ! 自分でもびっくりだよ~!」
「パーパやマーマも無いアルか?」
今度は赤い瞳をクリクリとさせて、クーが訪ねてみる。
「ううんっ! 確か、バウーフ人は、エスパーの要素、全く無しとか言われてたんじゃなかったっけな~……。それが、ある日、突然、魔法使いになっちゃった気分でさ~! ワタシ、夢、見てるのかと思っちゃったよ~!」
ルーシーにとって、その瞬間は、とても仰天だったようだ。身振り手振りも大きく、彼女は自分の能力に気づいた時の話を語り続ける。
「あいや~。パーパみたいアルね~」
「えっ? そうなの? クーのDaddyってエスパーだったんだ!」
そして、クーの呟きに、猫耳は、更にクルクルとさせれば、やがて、話しの流れは、当然、後部座席に座るモモに行き着く事になり、
「う、うん。先祖から代々、みたい」
などと、モモが濁らして答えて見せれば、
「Cool!みんなすご~いっ! ……ん~。遺伝か~。聞いたことないな~。パパもママも、毎日、アメリカンジョークばーっかりだしサ~……」
と、ルーシーは感嘆を口笛と共に表しながら、船窓の先に視線を戻すと、今度はブツブツと、自分の記憶を辿るようにしてみせるのであった。
さて、モモ、クー、ルーシーは、こうして、晴れてプロとハンターとなったのである。武者修行ともなるわけだから、後部座席にいるモモが、一際に張り切っていたであろうか。後は、三人ともに力を合わせ、実績を積んでいくのみだ。やがて三人娘は今後の方針について語りあっていこうとしていると、
「そうだねー。とりあえず、ハンター組合所の支部にいってさー。どんどん、依頼を受けてってみようよー」
などと、このハンターという仕事には、少しばかり皆よりも詳しいルーシーは語り始めるのであった。
交付所なる場所でも様々な依頼が、よく空中に舞っていたものだが、晴れて正式なハンターとなると、今度は「ハンター組合所」なる機関の「支部」と呼ばれる場所にいって、仕事を探していくというのが、ハンターの日課であることをルーシーは教えてくれた。
「元締めの本部はね~、こっからだとかなり遠いとこの星にあるんだ~。会長さん、すっごいお金持ちなんだよ~! 支部は、交付所みたく、宇宙ステーションで、あっちこっち漂ってたりもするし~、銀河系連合加盟地域の国なら、街に出先機関もあったりするし~、いろいろっ! 依頼の受注は、そこでするんだよ~」
ふむふむとモモとクーは頷く。なんとも頼もしい仲間ができたものだ。
早速、辿り着いた、最寄りの組合所の支部は、レンガ造りの街並みが美しい、石畳の道も続く、まるで童話に出てくるメルヘンのような風景の一角に構えられていた。依頼の数々は、掲示板とされた箇所に集められ、ナンバリングで表示されている。受付とよばれる場所にいって、ナンバーを告知し、本人のハンターライセンスの照合でもって、受注が成立するというシステムであった。
かつての太陽系も、もれなくその一員であったのだが、少なくとも銀河系連合の加盟地域内は、未だすっかり平和ボケの雰囲気が蔓延としたご時世であった。そんな弛緩しきった世の中で、原始の頃からと変わらず、常に危険と隣り合わせの世界であったのが、ハンターたちだったのだ。
そして、そんな危険な世界に身を投じる者たちと言えば、いくら女性の力が強くなって随分経った時代とは言え、地球人、異星人問わず、そのほとんどが男たちであり、少なくとも、その支部の場にいる女性の姿と言えば、受付で対応している、蝶ネクタイの首周りの下は、なぜか、その巨乳を強調しているかのようにギリギリのトップのところで覆っている、組合所の制服姿の、金髪をした地球人風の女性と、ハンターたちに、食事や酒を運ぶ、やたら容姿端麗で、男に媚び売るデザリングである事満々の、バニーガールみたいな制服をしたウェイトレスたち位であり、なんとか掲示板を覗き込もうと悪戦苦闘するモモたちの周囲には、少なくとも此処に他の女性ハンターの姿はなかった。
設えられたテーブルでは、まるで、この街の世界に合わすかのように、西洋の甲冑のデザインをした防具を着込んだあらくれ者たちが、下品た笑い声も響かせる中、
「ね、ねぇ、ルーシー、支部って、こんなとこ、ばっかりなのかなっ」
なにせ、漸く、ありつけたナンバリングも早い者勝ちなのだ。幾度も受付と掲示板を往復し、交付所では経験しなかった手間暇に、流石に辟易したモモが、ルーシーに訪ねると、
「や~。そんなはずないと思うよ~。いきなり、大変なとこ、あたっちゃったネ」
答えるルーシーは小さく舌をだしては、苦笑する。
「あいや~。ずっと残ってるのは……ふむふむ。この宇宙生物、なんか、とってもおっきいアルね。けど、やりがいはありそう! モモ、どうするネ?」
そして三人の中では、男どもの群れをこじあけることに一番適したクーが、前回の反省を活かし、仕事内容をしっかり読み込んでは、モモに訪ねてみせ、
「そ、お、ね~…………」
受注が成立しては表示が消えていく依頼の電光表示の中、何度も往復するうちに、少女たちは、一向に、延々と表示されたままとなっている仕事内容がいくつかある事に気づいたのだ。相手のレベルは結局ままごと程度の力量であったとは言え、なにせ、仮免の時点で暴力団を相手どった三人である。新人ハンターではあっても、肝っ玉の据わり具合では、この場にいる同業者の誰よりも勝るものを持っている、と言って過言ではなかった。
漸く、ありついた、駆除する宇宙生物は、表示された情報に映る姿も、巨大なミミズのような口の中は、牙だらけで、見るも恐ろし気であったりすれば、受付のやたら巨乳の金髪も、
「あら~、あなたたちだけで、この子を狩りにいくことにしたの~?! この子には、みんな、手を焼いてるわよ~?」
などと、驚いてみせたりしたものだが、尚も全く物怖じしない、三人娘の姿には、同性故に好感を感じた様子で、
「……がんばってネ! ところで、グループで行動するなら、チーム名なんていうのも登録できるけど、どうする~?」
と、問われ、とりあえず、三人の名をもじり、「ピクルス(仮)」などなど名乗ってみれば、
「……該当なし。OKっ!」
そこはまるでファンタジー世界の舞台の様な支部であったが、無論、受付嬢の手元には、端末機器にパーソナルコンピューターまであるのは当たり前の事であり、彼女は、手慣れた仕草で作業を推し進めていくのであった。
こうして、モモ、クー、ルーシー三人のハンター生活ははじまったのだ。身分証明書であり、パスポート変わりにもなるハンターライセンスは、とにもかくにも、重宝の一言であった。巨大ミミズモンスターが出没する砂漠の星のその国では、国難に、国王はノイローゼ寸前であったのだが、漸くやってきたと思ったハンターたちが、小娘三人とくれば、宮殿の謁見の間で、惜しげもなく、更に、肩を落としてみせたりするではないか。勝気が服を着て歩いている三人娘のガッツがそれに燃えないわけがなかった。
ただ、土の中を這いずる相手の特徴が神出鬼没という特徴であったりすれば、人々の噂を追いかけるによう方々の街の宿を寝泊まりする事も余儀なくされ、時に、宿泊費は悩ましく、船中泊をも断行しての、チームピクルス(仮)三人娘の、巨大ミミズの行方を追う日々は続いた。漸く、現れた巨大ミミズは、確かに、怪獣そのものであったが、武者修行と決め込んだモモの剣はひるむことはなかったし、クーのカンフーは元々がでたらめなバカ力である。人間離れした力たちを前にして、たまらずにミミズは土の中へと逃げていった。
相手が巨大なだけに、なかなか、致命傷とまではいかなかったのだが、三人が確実に獲物を追い詰めていっていたある日、相手の「気」を感じることに長けたクーの能力が、モモにもできるようになると、やがてそれは伝播するようにルーシーまで可能となれば、薄汚れたモーテルの一室にて、皆で車座に意識を集中すると、巨大ミミズの居場所すら解るようになっていて、とうとうその日、出没の先回りにすら成功した、砂埃の中で汗粒を額に浮かべ、肩で息する乙女たちの前では、 ズ……シーン………………! と、執念の追及は遂に実り、モンスターは息絶えたのであった! 討伐成功に国王は大変喜び、その日、王城で催された、お姫様待遇のパーティーのおかげで、当日分の食費と宿泊費にはホッとしたものの、それまでかかった膨大な滞在費は、既にピクルス(仮)メンバー共通の悩ましい課題であったりした。
高難易度の依頼を、ハンター初仕事にしてコンプリートしたという事は、大いに認められ、支部に足を運ばなくとも、直接、本部から依頼のリストが送られてきたりし、ルーシーが、旅立つ際に、親から渡されたという貯金でパソコンを購入できれば、メンバー共有のアドレスを作成し、それでもって請け負ったものだが、三人のハンターとしての実績は大躍進したにしろ、それでも給与が振り込まれるまでのピクルス(仮)メンバーは、とうとう慢性的に船中泊を繰り返しては依頼をこなしたりする毎日となり、AIとは言え、かつての剣豪ウズメの記憶にも、すじもいいと太鼓判を押されたモモも、既に剣士の卵となりつつある中、久々に宿泊したベットの上では、目下、この悩ましい問題を少しでも解決できないものかと、乙女たちは真剣に思い悩んでいるところだった。そして、
「……Secret Base……秘密基地、っていうのはどうかな?」
ふと、猫耳乙女は呟き、
「秘密基地っ?!」
モモは驚いて、大きな瞳をクルリとさせたのだ。
「……ほら~、組合所から直接、依頼も来るようになったわけだしさ~、ワタシたちのOffice&Private Roomなんて、あったら素敵じゃない?」
それは、先ずは、自分たちの住居を確立しようという提案だったのだ。確かに、今の三人なら、ライセンスもあるわけだし、どこかに住居を構える事も可能であろう。女子の一人暮らしというなら多少の不安もあるものだが、今や気兼ねない友達同士とあれば毎日も楽しそうだ。
「ん~……けど、三人で暮らす~……物件~……敷金~……礼金~……現在、没有銭~……もうちょいお金欲しいネ~」
うつ伏せに寝転び、足をパタパタとさせながらのチャイナドレスの乙女は、携帯端末の画面にインターネットを繋ぎ、そろばんのアプリなども表示させると、全然長年のブランクを感じさせない扱いぶりで使いこなしては、結果を告げてみたりする。
「ううんっ。それじゃ、ホントにBaseになっちゃうよ~。ワタシが考えてるのはね~。ほら~。昔、太陽系連邦の時代にさ~。地球の人たちって、いろーんな星に住もうとしたわけじゃな~い……」
彼女の提案は、それから連邦が崩壊し、銀河系連合の宇宙時代となって、尚、誰からの入植もないまま放置されている星にあるコロニーを改装してしまって、住んでしまおうという計画だったのだ。話を聞くモモとクーが共に瞳をクルリとしてルーシーを見ていると、
「ほら。そうすれば、家賃もFreeだしさ~……。ワタシたち、皆、テレキネシスもできるわけだし~お掃除も普通の人たちより、すぐ済むと思うんだ~。……で、なんていったって、ワタシたちには~頼もしいテオがいるぅーっ! てへっ!」
「……だぁーってさー。テオ~。どうーっ?」
しまいにはルーシーはてへぺろと言わんばかりに、はにかんだものだが、既に、その提案に心躍るものがあったモモが、自らの端末に語りかければ、
「現在、九十パーセント以上ノ確率デ改装可能ナ旧コロニーヲ有スル、近場ノ星系カラ、リスト化シテオリマス」
仕事の早い従者は、既に一歩先を行っており、まだまだ少女である三人の瞳が更に輝かないわけはなかった。
こうして、早速、翌日、三人の秘密基地物件探しははじまったのだった。見て回る廃墟は未だにそこそこ扱えそうな建物が多く、それぞれに、その支配者であった民族の末裔ながら、大昔にあった巨大帝国の文明水準に、感心してみたりしていた。
漸く、これぞと決めた星では、鬱蒼とした森が生い茂り、夜風は心地よく、空には三つの月が浮かぶ頃合であったが、コツリ……コツリ……と、亀が草地に半分埋もれたかのような白色の建物の暗闇の中に、三人の乙女が入っていく中、
「ソーラーシステムニ貯蓄サレテイタ、エネルギーヲ牽引シマス」
と、ドローンと化したテオが、スコープの眼を光らしながら、その隙間を縫うようにして、更に奥まで押し入り、間もなくして、一室には、点滅の後に、灯がともると、大掃除もがんばる覚悟な室内でもあったが、三人は顔を見合わせれば、思わずドキドキに笑顔も生まれたのだった。
各自、三人ともに自分たちの部屋を決めて尚、余りある間取りにて、その夜は、ゆくゆくは共有のリビングに使おうと決めた一室に、共に寝巻を持ち込んで休むことにし、おのおのが、とりあえずの私物を宇宙船から運び出そうとしている最中、モモが先ずした事と言えば、ギターケースを運び入れようとする事であり、たまたま、すれ違いざまのようになったルーシーが、
「ずーっと、気になってたんだケド~。それってモモのなのー?」
などと興味深げに語りかければ、
「ううんっ! 大昔の、……おじいちゃんの」
モモは答え、ホログラムの中ではじめて出会った、その丁髷姿などを思い出したりしていると、
「Wow! それって、すっごいcoolだよー! ワタシ、ちょっとのコードなら弾けるよー」
「えっ?! ほんとっ?! すごい……っ! 聴かせてっ!」
ルーシーは何気なく話したつもりでも、大事そうにケースは両手に抱えたままのモモは、今や、思わず前のめりとなっていて、その南国特有の大きな瞳は、月夜に一際、輝いていたのであった。
雑然と散らかり、また伽藍ともしていたコロニーの一角にて、端末のアプリでチューニングをもし終えたルーシーは、
「モモのおじいちゃまは、とーっても音楽が好きだったんだネ~……」
などと、サウンドホールの周囲についたピック痕を、そっとなぞってみせたりもすると、モモとクー、そして、二人よりも、心なしか、熱く見つめているような、テオの一つ目のスコープの瞳の前で、ジャラーンと鳴らしてみせた後、やがて紡ぎ、始まったコード進行と共に歌われた歌は、アメリカのオールディーズ、ベン・E・キングの「Stand by me」なのであった。
ただ、灯りの中では細やかな宴に女子たちのはしゃぐ声も漏れ聞こえる中、闇夜となった周囲の森の中では、なにやら蠢くものたちの姿があり、それは、「グルルルル……」と、まるで牙を向くように唸ったが、その日は直ぐに立ち去ってしまったので、久々に鳴ったギターの音色に酔いしれてる者たちは、誰一人気づけなかったのだ。
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