(二)

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(二)

 広い通路の左右には倉庫の建物が数百メートル先まで立ち並んでいた。倉庫の壁面にはめいっぱい大きな文字で「時田倉庫」と書かれていた。倉庫の重厚そうな鉄製の扉には手前から1、2、3と算用数字が描かれていた。倉庫番号なのだろう。  パトカーは、敷地に入る際に門を通り抜けてきた。そして一番手前の倉庫の入り口前で停まった。県警が来た様子はまだなかった。つまり県警より先に現場に到着できたようで、鉢山は少し安心した。署轄の刑事が現場へ一番乗りを逃したら、面目丸つぶれだからだ。  下車した三人は一番倉庫にある事務所に向かった。その途中で鉢山が上原に聞いた。 「場所はどこって言ってた?」 「一五番です」  上原が手帳を取り出しに見ながら答えた。 「一五番のどこだ。倉庫はでかいんだぞ」  そう言いながら三人は事務所の扉を開けて中に入った。 「井荻林の名義で預けてあるらしいです」 「いおぎりん?」 「はい、井戸の井、荻窪の荻、そして林と書くそうです」  三人は事務所のカウンターの前まできた。  作業着を着た若い事務員の男性が立ち上がった。 「一五番の倉庫に『いおぎりん』の名義で荷物を預けているのだが」  鉢山がそう言うと、事務員は帳簿をめくり始め、名前を確認した。 「いおぎりん……様ですか、お名前がないようですね」 「そんなわけはないだろう、井戸の井、荻窪の荻、そして木が二本の林で、『いおぎりん』だ」  上原がフォローした。 「ああ、その漢字ですか。ちょっと待って下さい……」  再び帳簿をめくると、事務員は名前を見つけ、動きを止めた。 「いはぎはやし……様、でしたっけ」 「『い・お・ぎ・り・ん』だ」  鉢山が言った。 「ええ、ありますね。そうしたら、身分証をお持ちですか、それとここに記帳を……」  事務員が利用者の名前を記すためのノートをカウンターの上に置くのと同時に、鉢山が背広のポケットから警察手帳を見せて「警察だ」と短く言った。 「臨港署の捜査課だ。盗難品の押収に来た。案内してくれるか」  上原が続けた。  事務員は驚きの声を上げ、「少々お待ち下さい」と言って事務所の奥の方へ行ってしまった。そして上司らしき年配の男性と一緒に戻ってきた。そして年配の男性は鉢山に向かって言った 「臨港署の方ですね。ご案内します、こちらです。ちなみに私は神(じん)といいます」  「神泉水」と書かれたネームプレートを首から下げた男性が先導し、三人は事務所を出た。 (続く)
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