後宮の老女と不遇の公主

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後宮の老女と不遇の公主

 小さな頃から、「なんだか不気味な子」と言われる事が多かった。まるで心を見透かしているようだと。  それは、あながち間違いじゃない。その人の目をジッと見つめると、その人の考えている事や思っている事が分かってしまう。  小さな私はそれが奇妙で、不気味で、普通じゃないってことに気づかなかった。それに周りの人達も愛想笑いをして「子供の言う事だから」と知らんぷりをしていた。  だから、物心ついて少し賢くなるまで、私は思うままに色んな人の心を暴いて、いつの間にかひとりぼっちになっていた。  ここは(りょう)の国の後宮。華やかな嘘つき達の鳥籠。  私、鳥姫(ちょうき)はここで生まれた公主というものなのだが、あまり丁寧な扱いは受けていない。これでも帝の子なのだが、女じゃ世継ぎにもなれないし、下に弟もいるしで誰の目にも止まらない。  それはそれで好き勝手ができるからいいけれど、あまりに相手にされないというのも面白くない。悪戯をしてみても無視されるし。まるでここに、私は存在していないみたいだ。  こんな時はもっぱら、探検するのがいい。何せ後宮はとても広いのだ!  今日は庭を散策している。季節の花が綺麗だし、池もあるしで煌びやか。年に二回園遊会も開かれるくらいの豪華な庭だ。  でも私は知っている。この庭の先にひっそりと離宮があること。そこに、あまり人が行きたがらない事。そしてこの事を皆、秘密にしていることを。  私は好奇心旺盛な女の子だ。冒険だって怖くない!  こっそり隠れて庭の奥に行くと、本当に小さな離宮があった。  建物は古くて、人の気配もしない。捨てられた場所のようにも思える。  警戒して外からそれを眺めていると、不意に柔らかな声が歌うのを聞いた。  不思議な音だった。天女が歌っているのかと思った。澄み渡る女性の声は後宮の妃候補にも負けていない。  私は好奇心が先だってついつい、声の聞こえる方へと足を向け、飾り窓から中を見た。  歌っていたのは、一人の老女だった。灰色がかった白髪を結ったその人は皺も多くて細くて……でも声だけは若い娘のように澄み渡っている。黒い瞳は穏やかにどこかを見ている。  老女の歌声に思わず聞き入っていると、不意にその目が私を見て、にっこりと微笑んだ。 「あら、珍しいお客様ね」 「!」  驚いてしまった。なぜなら話しかけた声は外見に見合うものだったから。しわがれてはいないが穏やかでゆったりとした、とても優しい声だった。 「小さなお嬢さん、よければこの婆の話し相手になってもらえませんか? 一人はとても寂しいのよ」  老女は本当に寂しそうに笑う。目を見てみたが、本当に言葉通り寂しいという感情で溢れている。  私はそっと中に入り、老女の前に座った。 「初めまして、お嬢さん」 「初め、まして」 「緊張しているの? 大丈夫、取って食ったりはしないわ」 「……知ってる」 「そお?」 「……お婆さん、ここで何をしているの? 何の人?」  私が問うと、老女はちょっとだけ悲しそうな顔をして、すっと()の裾を上げてみせた。  そこにはとても古い傷跡が両脚にあって、私は少し怖かった。 「私は、秀蘭(しゅうらん)というの。元はね、語り部をしていたのよ」 「語り部?」  知らない言葉に、私は首を傾げた。 「語り部は旅をしながら色んなところで物語を語るのよ。遠い西の国の話や、お姫様と王子様の恋のお話。でもやっぱり皆が好きなのは、王子様と平民の女の子の恋かしら」  くすくすっと、まるで子供みたいに笑う秀蘭を見て、私の胸もほんの少しワクワクしていた。 「お話、得意なの?」 「そうね」 「私、聞きたい! 私ね、ここしか知らないの。お話聞かせてくれる人がいないの」  私がお願いすると、秀蘭はとても嬉しそうな顔で頷いてくれた。 「勿論よ、小さなお嬢さん。それでは……何がいいかしらね?」 「楽しい話がいい!」 「ふふっ、いいわね。では、小さな子猫の冒険の話はどうかしら?」 「なにそれ! すっごく面白そう!」  胸をときめかせる私に、秀蘭はとても嬉しそうな顔をして話してくれた。  私はその言葉、声の調子を一つずつドキドキしながら聞いて、一緒に笑って、一緒に驚いていた。  これが、私と離宮の語り部秀蘭との出会いだった。
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