ジン・デイジー4

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ジン・デイジー4

 年齢イコール経験ナシの俺は、もちろん童貞。  大学に入ってからは彼女が居た事もあった。  でもそれは一ヶ月と保たなくて、「友達としてなら最高」「彼氏だと思えない」と、たった二週間くらい付き合っただけで何が分かるんだって理由でフラれた。  大学を卒業して大手電気メーカーの営業職に就いた俺は、ここでもよく分からない難癖を付けられて自主退職を促され、半年も働いてないのに退職金は弾むよと諭されて渋々辞めた。  いや待ってよ。  俺、新入社員の中でも営業成績かなり上位だったよ? 男にしては背は低いけど、見た目も中の上くらいで口も達者で、新規もたくさん取ってきてたよね?  ……なんて、入社して早々の若造が口答えなど出来なくて、しかも提示された退職金が目玉が飛び出そうなくらいの高額だったから駄々はこねなかった。  彼女が出来ても秒でフラれ、就いた職にも切り捨てられ、残ったのは初恋の人の残像と意味不明なたっぷりの退職金だけ。  俺は大学に入学してすぐの頃から続く小さな負の連鎖に、思いっきり凹んでいた。  そんな時に、伊織さんを見付けた。  高身長の美人モデルのような伊織さんと、二センチ誤魔化して百七十だって言い張るような低身長な俺とじゃまず見た目からして釣り合わないし、高校時代の初恋の人の横顔に似ていた伊織さんから、たくさんの笑顔を貰えるだけで俺は幸せだった。  だから見ているだけでいいんだ。  高い位置から微笑みかけてくれるだけで頭を撫でられてるような心地良さがあるから、俺はそれだけで満足。  ──そう、満足。 だったのに……。 「……伊織さーん、好きですぅ。 おれ、めちゃくちゃ伊織さんのこと好きなんですぅ。 ほんとなんですぅ」 「………………」  俺は見事に、酔い潰れる一歩手前だった。  グラスが空にならないうちからどんどんマルガリータを作って寄越す伊織さんのペースに合わせていると、次第に視界も歪み、頭と瞼が重たくなって酔っ払いよろしくカウンターに懐いてしまっている。  順序的なものをすっ飛ばしている自覚も無かった。 「伊織、あんた今日どんだけ飲ませたのよ」  遠くでママが伊織さんを窘めている。  俺の視界で霞んだ伊織さんは、小首を傾げて手のひらをパーにして見せた。 「あんたねぇ……マルガリータ出した時点で決めてたんでしょ。 今日ヤッちまうぜって」 「ふっ……」 「十和くんを潰したのはあんたなんだから、責任持ちなさいよ? あと、ヤッちまうのはちゃんと説明してからにしなさい。 いいわね?」 「…………」  ヤッちまうぜ、……?  何それ、男らしい。  回らない頭の中で、俺より遥かにガタイの良い伊織さんがパンツスーツスタイルで格好良くガッツポーズする姿がよぎった。  けれど実際の伊織さんはというと、悪い笑顔を浮かべてカウンターに懐く俺を見詰めていた。
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