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啓斗と結婚できて、子どもを生むことができる女性であることがうらやましい。いや、違うな。啓斗に愛されている瑠李がうらやましいのだ、と悠介は考えを改めた。瑠李が男性であったとしても、啓斗に愛されているならば間違いなく嫉妬していたであろうから。
「酔っぱらってる啓斗を助けてくれたんですよね?」
「うん、まあ、助けたといえば聞こえがいいけど」
「違うんですか」
我関せずの啓斗だったが、気だるげに頭を持ち上げた。
「風邪ひくと思って声かけただけで、まさか家に連れて帰ることになるとは思わなかったかな」
「あー、はは!そうですよね。そんなつもりで声はかけないですよね」
瑠李は朗らかに笑った。
明るく軽やかに笑う姿を見て、啓斗が惚れる気持ちもわかった気がした。話していて心地いい。自然と肩の力が抜けるし、邪気を祓ってくれそうな輝きがあった。心の奥底に沈むどろっとした薄汚い感情も全部取っ払ってくれる女神みたいな存在。瑠李のことを好きであればそう感じたはずだ、瑠李のことを好きであれば。
椅子に座る悠介の両足の裏側から、屁泥みたいな感情がフツフツと湧き上がってくるのがわかった。たぶん、瑠李と話せ話すほどその感情が積もり積もって自分を包み込んでしまうだろうと冷静になって考える。天井辺りで自分を見下ろす、もう一人の自分がそう言っていた。
「酔っぱらいを家に連れて帰るオッサンとか、さぞかし心配したでしょ?」
「いえ、会って安心しました。啓斗が言ったとおりの方でした。実際会うまで信じられなくて、でも本当にそのまんまです」
啓斗がどんな風に説明したのかわからなかったが、悠介を見つめる瑠李の目がキラキラと輝いていたので、印象は悪くなかったようだとひとまずは安心する。
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