7.好きな人の好きな人

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「啓斗……悪口言ってなかった?」 「全然ですよ!私に心配かけまいと思って、適当なこと言ってるんだって勝手に思ってました。一つも信じてなかったんですけど、こういうこともあるんですね」  にっこりと微笑む瑠李は、かわいらしくもあったが、母親のような力強さも慈愛も溢れており、もうこれ以上側にいたくないなと思うほどだった。 「アイスホッケーもなさってるって聞きました」 「あ、うん、そうなんだ」  自分であれほど隠せとか言っていたくせに……と啓斗に目を向けると、当の本人は口笛でも吹き出しそうな惚けた顔をして目を合わそうともしない。 「近くにそういう人がいないのですごいなあと思って。スケート滑れるってことですもんね」  ほら、絶対そういう方向になる、と苦笑いしそうなのを抑え込む。 「いやいや、啓斗のやってるバスケとそう変わらないよ。バスケよりは危険だけどね」 「そうなんですか?」 「うん、アイスホッケーでいうボールはパックっていってね、小さくてそれ自体はそんなに重くないんだけど、スティックで打つと百キロ以上のスピードが出るんだ。チームメイトは練習中、顔に当たって歯が折れたよ」 「えー!」  驚く瑠李の顔を正面から見た後で、悠介がテーブルに視線を落とし冷ややかに微笑んでいたことは誰も知らない。 「一番最悪なのは、たまたま見に来てくれてた観客の頭にぶつかってその人が亡くなっちゃったことかな。プロの試合だったし、しょっちゅうあることじゃないけど、そう珍しいことではないよ」  瑠李と啓斗が息を呑み、二人の表情が重なるように青ざめていく様子がわかった。笑いそうになるがここで笑ったら頭がおかしいやつに思われかねないので平静を装う。
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