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悠介と啓斗は最初のように、瑠李の待つテーブルに戻り、椅子に腰を下ろした。啓斗にしては珍しく何か緊張しているように見える。
「今日、瑠李と悠介さんを会わせることに決まってちょうどよかったな、って思ってたんですよ」
何のことかさっぱり思い当たる節のない悠介は、啓斗の続きの言葉を待つ。
「実はオレ、合同トライアウト受けることに決めたんです」
「合同トライアウト?」
トライアウトといえば、入団テストのようなものだと把握しているが、何のトライアウトであろう。と一瞬、クエスチョンマークが頭に浮かんだものの、啓斗が言うのだから答えは一つしかないと確信する。
「そうです、トライアウト。毎年六月くらいにあるんですけど、次もあるって情報公開されたので受けようと思って。プロのバスケチーム、一部、二部、合同で何チームか来るんです。どのチームが参加するかはまだほとんど公表されてなかったんですけど、どこでもいいので」
「それって……そんな簡単に受かるもんなの?」
周りにそういう人がいなかったせいか、全くイメージが湧かなかった。
いつかニュースで、契約更新されなかった若い野球選手がトライアウトを受け直して野球を続けようと奮闘している、などというものは見たことがあったが、どこか遠い世界のような気がしていた。プロは厳しいんだなと。
「簡単ではないですけど無名でも受かる人は受かるし、学生時代にそこそこ知れてても落ちる人は落ちます。大学の先輩で受かってる人がいて……」
その先輩の話を聞いて、自分にもチャンスがあると思ったのかもしれない。前向きな気持ちへの変化は素晴らしいことだと思った。
「悠介さんには言ったことなかったと思うんですけど、オレはケガが続いててプロにもなれなくて、トライアウトも受けられなくて、そのままずるずる逃げて前回もテスト受けてなくて……。すでにプロとして活躍している学生時代の先輩、友人たちもたくさんいるのに今さらな、って思ってたんです」
「何でまた急に」
「悠介さんのおかげですよ」
啓斗は正面から悠介を見据えた。その眼差しに偽りはなく、つるんと水晶玉のような光を放つ。
「へっ?」
間抜けな声が鼻から魂のように抜けた。
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