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「悠介さんのアイスホッケーの試合を見たおかげです」
「あの試合でか?」
「いい年してあんな熱い試合できるなんて、オレ、悠介さんのこと正直言ってナメてました」
「いい年ってお前……」
悠介にしゃべる隙を与えない啓斗。
「毎日仕事で夜遅くて、それなのに土日は試合に練習、平日の夜に練習でいないことだってあるし」
「いや、俺は単に家族がいないからで」
「それにしたってですよ。悠介さん、自分がホッケーしてる姿見たことあります?普段と全然違いますよ。いつもは穏やかで人と争うようなことは嫌いですみたいな顔してんのに、試合ではタックルしてるんですよ。試合開始直後に退場なんかしちゃったりしてるんすよ」
いつもどこか気だるげな啓斗にしては、珍しく歯切れのいいしゃべり方だった。
「馬っ鹿!あれは退場じゃねーよ。いや、退場は退場だけど、一時退場でペナルティーボックスの中だし、試合にはすぐ戻れるし」
「試合中は肉食獣みたいなギラついた目をしてましたよ」
「肉食獣って……」
言い返す言葉さえ失ってしまう。
「アマチュアですよ、みんな。プロを目指してるわけでもないおっさんたちがあんなに暴れてるのに、オレは何してるんだろうって。こうなりたかった、ずっとこうなりたかったのにって。めちゃめちゃ悔しかったですよ、オレがこうなるはずだったのにって。そんでめちゃめちゃ羨ましかったです。……くっそおもしろかった、あの試合」
啓斗がようやく一息つく。まだ興奮冷めやらない様子で、背中から湯気が出ているように見えた。
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