8.それから

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 さすがにこのままではいけない。しっかりトライアウトの応援をしたい。希望人数が多かったら書類で落とされるとも聞いていたがどうなったのだろうか。  一度気になりだしたら、止めどない不安が湧水のように溢れ出す。いきなり会って話す自信がないのでまずはリハビリがてらメッセージを送った。何のリハビリしてんだか、とため息をつきながら。 (トライアウトの書類審査どうなった?)  もちろんすぐに既読はつかず、夜中部屋にいるときにようやく返信があった。どうやら啓斗も帰宅したようだった。 (なかったですよ) (ない?) (希望者百人以上だとあったみたいですけど、そんなにいなかったので全員受けられることになりました) (なるほど。とりあえずはおめでとう?) (ありがとうございます。今、部屋から出てこれます?)  そのメッセージを見て体が凍りつく。出てこれないわけじゃないがまだ会いたくない。いや、会いたくないわけではない、むしろ会いたいがどんな顔をしたらいいのかわからなかった。  いずれ啓斗はこの家を出て行く。たぶん、もう、わりとすぐに……。トライアウトに受かったら手に職があるわけで、年棒が低いといっても選手寮とかもあるかもしれないし、近いうちには出て行くことになるだろう。  トライアウトに落ちてプロになれなければ、すぐに出て行く可能性は低いが、応援する気満々の瑠李が再び啓斗を呼び寄せて、自ら支えようとするかもしれない。そういう世話好きの女の子に見えた……人のことは言えないが。  この家にいてほしいからといって、トライアウトが不合格になればいいなどと、安易なことを思っているわけではない。合格してほしいと思っている、誰よりも心から。
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