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彼は申し訳なさそうに出て行ったが、それなら最初から付き合ったりするなよと、突然夢の中で怒りが込み上げてきた。彼が出て行ったあと、玄関にあった靴を全部ドアに向かって投げつけてやった。
塩を撒いているように重量は全く感じなかったので、何度も何度も投げつけてやれば気分が晴れ晴れすると思ったが、玄関に靴が山積みになっていくぶんだけ、悠介の中にあるモヤモヤした感情が明るみに出て視界を遮るだけだった。
ふいに誰かに手を掴まれた。振り返ると啓斗だった。
啓斗は言った。
「もう大丈夫ですよ」
意味がわからなかった。大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない。あいつは出て行って女性と結婚する。いや、もう結婚した。全然大丈夫じゃないじゃないか。
「……ぶですか?」
微かな声が聞こえてゆっくり瞼を持ち上げようとするが、重くてなかなか開かない。
「……丈夫ですか?」
ほんの少し開いた上瞼と下瞼の隙間から啓斗の顔がぼんやりと見えた。
夢?夢……だよな。啓斗は今トライアウトに参加している。ここにいるはずはない。
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