70人が本棚に入れています
本棚に追加
緊張の糸が切れたのか、いつもふわふわのたんぽぽのように揺れて浮かんでいた啓斗は、悠介を固く抱きしめ、しっかりと地面に根をはっていた。
「ん……おめでとう。よかったな。本当によかったよ。うれしい。めちゃめちゃ」
悠介も啓斗の背に手を伸ばし強く抱きしめた。たぶん、これが啓斗に触れられる最初で最後の瞬間だということを噛みしめながら、深く胸に刻むように、手のひら全体で啓斗の背中から伝わる熱い呼吸を感じた。
悠介の鼓動が高鳴り、啓斗の鼓動と重なって一つになったような気がした。二人の胸の間に隙間はなく、啓斗の体の熱が直接伝わってくる。悠介よりいくらか熱い啓斗の体温に溶けてこのまま消えてしまいたい。自分の気持ちとともに蒸発して雨を降らせて地に返すのだ。
「……ところで、啓斗くん」
「何すか」
「そろそろ起き上がってはもらえないでしょうか」
「あ、もしかして勃っちゃいました?」
「ばっか、ハグだけで勃つかよ!」
ソファーの上で見つめ合う二人。仰向けで寝る悠介の上に勢いよく乗っかった啓斗。半ば啓斗が押し倒しているように見える構図、悠介の顔の正面すれすれのところに啓斗の顔があった。
啓斗の呼吸がそのまま悠介にぶつかる。悠介は啓斗にバレないように、それを全て飲み込んで生気にした。これでいつか啓斗がいなくなったとしてもしばらくは生きていける。
二人は見つめ合ったまま笑い出す。
「ハグじゃ勃たないっすかね」
「さすがに勃たない、馬鹿にすんなよ」
嘘だった。すでに半勃ちしていたがこの程度ならたぶんバレない、……たぶん。
最初のコメントを投稿しよう!