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啓斗に家を出て行くと言われて以来、悠介の体の中の時間が止まった。
会社に行ってもアイスホッケーの練習に行っても何の感情もないし、何の記憶もなく、ただ無気力に時間だけが過ぎる。
悠介自身もまさか自分がこんな風になるとは思ってもみなかった。啓斗が出て行く覚悟はできているつもりだった。
啓斗を支えてやってるくらいの気持ちだったが、支えられていたのは自分だったとわかり愕然とする。彼に依存していたのが自分だったと今になってわかるというマヌケぶりに、反吐が出そうになる。
そんな悠介の様子に気がつかない啓斗ではなかったが、特別にフォローするわけでもなく、かといって突き放すでもなくいつもどおりに接した。
その日はすぐにやってきた。
啓斗がもう二度とこの家に帰ってこないと思うと胸がしめつけられ、心臓が床に叩きつけられる心地がする。自分で握りつぶした方がまだ痛くはないだろう。
多くない荷物はすでに岩手に送ってあり、マンションはチームで借りている独身寮みたいなところがあるらしく、何の心配もいらなかった。電気、ガス、水の手配などは特に個人でする必要もないという。
家具はついていないらしく、悠介は合格祝いに冷蔵庫を買ってすでに送ってある。本当は洗濯機と掃除機、テレビも買ってやりたかったのだが、
「アホっすか」
と啓斗に止められて断念した。
「確かにテレビはPCがあるから必要ないかもしれないけど、洗濯機は必要だろ?練習着とか毎日洗わないとだし」
「洗濯機くらい買いますよ。最悪、コインランドリーもありますし」
「そっか……」
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