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今、自分ができることは何でもしてやりたい。お金くらいしか自分にはない。悠介は歳ばかり重ね、何ももっていないのだという無力さを噛み締めて途方に暮れた。
「そんな顔しないで下さい。十分ですよ。十分すぎるくらい色々してもらいました」
こちらとしてはまだ全然足りない。もっと何でもしてやりたい。
「ホッケー、止めないで下さいね」
「当分はな。でもそろそろ引退だよ、年齢的に」
「はい、でももう少し」
「……うん」
悠介は力なく微笑む。
「たぶん、自分ではわからないと思うんですけど……」
「ん?」
「悠介さん、ホッケーやってるときめちゃめちゃかっこいいっすよ」
「そう?」
悠介はちょっぴり恥ずかしそうに笑った。
「はい、マジで」
「そっか、じゃあ何で啓斗は俺に惚れてくれないんだろうな」
照れくさい悠介は、わざと冗談まじりにそんなことを言う。
「それは……それっすよ」
啓斗が笑いながら真正面から悠介を見つめる。
「うん……」
何が〈うん〉なのかわからないまま頷いて啓斗を見上げた瞬間だった。急に視界がぼやけて、啓斗の顔がモザイクがかって見えた。しばらく呆然として何が起きているのか理解できなかったが、ようやく自分が泣いていることに気がつく。
気づいたときはすでに遅く、恥ずかしさのあまり頭が混乱して、ぐちゃぐちゃに濡れて滑った顔を急いで両手で覆い隠した。
どうして突然涙が溢れたのかわからなかった。何度も何度も手のひらで涙を拭うも止まらない。
啓斗が目を見開いたまま何も言わずこちらを見ていることはわかった。その視線が全身を絡めとり、絞られているかのごとく余計に涙が溢れる。体中の水分が寄せ集められているようだった。
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