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1.ウチに来る?
駅前のネオンで透けて見える雨にそれほどの勢いはないが、傘をさしていない道行く人々の頭の天辺は光って見えた。
濡れるのがイヤなため、会社を出たとき、雨が今より弱かった時点から傘をさしてゆったりと歩いている。
傘もなく急ぎ足で濡れながら歩くもの、傘を手に持ちつつも駆け足で通り過ぎていくものなど様々だったが、特に急ぐ気はない。ただ忙しなく動く人の渦をどこかぼんやりと眺めていた。
どうせ家に帰っても一人。会社の上司には身軽でいいなと背中を叩かれ、結婚して家族のいる同僚からは気楽でいいなと疎まれる。
同僚はまだいいが、守るべき家族がいないと、上司からは重宝されると同時にずいぶん雑に扱われた。責任感云々とことあるごとに言われてうんざりする。家庭はないが、仕事をいい加減にしたことはないし、いつだってプライドと責任をもって働いていた。それが独身というだけで上司には伝わりにくくなっているらしい。
重宝されるのに雑……相反する人間になってしまった自分をこれといって卑下するつもりはない。これが自分だと思っていた。一生結婚するつもりはない。子どもも作らない。
常田悠介はゲイだった。
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