ヘルズ・スクエアの子供達~パートⅢ~サイクロンのお話

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 何一つ出来ないし、そもそも何もしたくない。お腹は減るのに食べたくないし、ウトウトするのに眠れないし、誰にも彼にも腹が立つ。みんな、いなくなっちまえ。どうでもいいヤツばっかり、周りをウロチョロしやがって。イライラが止まらない。バカッ。  この最悪最低の気分を紛わしてくれるモノなら、何だって有難い。ほんの一時でもいい。淋しさを忘れさせてくれるなら、風でも雨でも雷でも槍でもナイフでも、どれでも何でも降ってくるがいいさ。ホープ島なんて、丸ごと海に沈んじまえ。  風が唸り叫ぶのを聞いていると、どうにもこうにも堪らなくなって、俺は悲しみ団地を飛び出した。誰も止めなかった。気づいてもいないに違いないんだ。  ああ、マッシュ・・・。お前がいればきっとついて来てくれるのにな。土砂降りの雨なんか気にもせず、泥の投げ合いをして遊ぶだろう。思いっきり笑って、それで・・・。  いや、これ以上は考えるな、俺!気が狂う。  団地の入口を飛び出し、ロトン・アレー(腐敗路地)に降り立ったその瞬間、ものすごい風に吹きつけられて、俺はよろめき、倒れそうになった。  目を開けてもいられない。雨だか海水だか、ミザリー・リバー(みじめ川)の汚いヘドロ水なんだか、正体不明の水しぶきが、強風に巻き上げられ、狙ったかのように俺の顔めがけて叩きつけられる。  息が出来ない・・・って、本当に呼吸してなかったら、俺はとっくに死んでるはずだから、空気は吸い込んでるんだろうけど、どう考えてみても、酸素より水の方が肺に多く入ってる。溺れそうだ。  もともと、グチャグチャネトネトの汚い通り、ロトン・アレーは、今や、こげ茶色の濁流が渦巻く川と化していた。深さも太ももまであって、二秒ごとくらいに力一杯ふんばらないと、足を掬われて流されそうだ。上半身は風にぶん殴られ、下半身は水に押しまくられ、体がバラバラになりかねない。一旦、水中に引きずりこまれたらアッという間に意識を失い、次に目覚めるのは天国だろう。  髪が狂ったかのように吹き乱される。全身を雨が乱打する。目も口も鼻も機能を果たしてないけど、耳は何とか働いている。が、拾える音はとんでもなく不気味で、聞かなければよかったと思ってしまう。
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