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雷だ。ものすごい轟き。俺はもう、地球がまっ二つに割れたって驚かないぜ。風もますます唸りまくる。ゴオオッーなんて生易しい音なもんか。成分の半分が水なんだから。ドシャーンってな音さ。
なんとまあ、有難い。ここでなら、俺の叫びは誰にも聞かれない。俺の涙も見られない。全身で泣き、遠慮もなく喚きまくった。なんで一人ぼっちなんだ!恋しい、お前が恋しいんだ、マッシュ。
ピカピカと、鋭く光る青い稲妻が、棘の様に暗い空を切り裂く。
悪意もなく、ただそこに存在するだけの自然の巨大パワー。その中に身をさらし、ただ立って豪雨に打たれていると、少しずつ少しずつ、体が暖かくなり、心が落ち着いてくるのを感じた。自分の心の中とおなじくらい、外の世界が荒れ狂っているからだろう。
頭がボーッとなり、意識がモウロウとし始めた。今、気絶してないなら、もうすぐ気絶しちまいそうだ。頭は空っぽ。何も無い。
なんて言ってたら、本当に頭がなくなるところだった。
いきなり、何か固くて尖った物が、俺の頭をヒュッとかすめて飛んでいったんだ。ピッと皮膚が切れた感触があって、チリッと痛みが走る。
どこかに出かけていた意識がパッと戻り、俺はハッと目を上げたけど、狂ったように舞い踊る雨風以外は、何も見えない。
慌てて髪を掻き回し、調べてみた。大丈夫。頭はちゃんとついている。首もチョン切れてはいない。何が当たったにせよ、それは、どこかに飛び去ったし、俺は生きてるらしい。この状況下では、出血の有無は判断できないけど、もし激しく出血してたら、心配する暇もなく死ぬんだろうから、心配しなくていい道理なわけで。
ガラガラガラ・・・雷鳴が耳をつんざき、ついにドッカーンと腹にパンチの大音響。雷が落ちたんだ。俺に直撃してないといいんだけど。こう次々にヤバい事態が起こってちゃ、自分が生きてるのかどうかすら、あやふやになる。
バン、バン、バン、なにかリズミカルな音が耳に届いた。お次は何だよ?
雨のカーテンをすかして見ると、ロトン・アレーを挟んで向かい側、暗やみ団地の玄関ドアの音だとわかった。
観音開きタイプで、二枚あるドアの内の、一枚が壊れたんだ.。上の蝶番だけで、危なっかしくドア枠にぶら下がってる。頑丈な鉄製なのに、まるで布きれ一枚で出来てるみたいに、風に揺さぶられ煽られて、上を下への大騒ぎ。
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