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その度にバタンバタンと、気が違いそうな音を立ててる。
これはヤバいだろう。数秒後には、千切れてて吹っ飛びそうだ。そして俺にぶち当たる。
そうなるとは限らないけど、もしかしたら、そうなるかもしれない訳で、つまりここにいたらマズイってことだ。
踵を返そうとした丁度その時、誰か小さな人影が、悲しみ団地から飛び出してきた。姿はよく見えないが、あのドアをかいくぐって外に飛び出すんだから、命知らずなヤツであることは間違いない。
そいつは、真っ直ぐこっちに走ってきたかったらしいけど、実際には雨風激流にブロックされて、フラフラよろめき歩くのが精一杯。
いや、どんな進み方をしようが、どうでもいい。問題はそこじゃない。ここにいたら危ないんだって。こんな時、外に出てくるなんて、とんでもなくバカなヤツだ。俺もか。
団地に連れ戻さないと。
俺は、雨を掻き分けるようにして必死で前進し、何度も押し戻されながらもようやく、そいつと数メートルまで距離を詰める事ができた。
顔が見える。ワイルド・キャット(お転婆猫)だ。先週、十二歳になったばかりのやせっぽちなチビ。
確かに、ヘルズ・スクエアの子供達の中ではヤンチャな方だけど、だからといってこんな狂気のお散歩に出ることはないと、俺は思う。
「ワイルド・キャット、危ない、戻れ!」
「サイクロンなの?手伝って!」
はあ?何を手伝うって?ワケわかんない。でも、悠長に話を聞きだしてる場合でもない。早くこいつをとっ捕まえて、団地に連れ戻さないと。あともうちょっとで手が届くのに。
ありとあらゆる法則を無視して、好き放題に暴れ回る雨風は、俺とワイルド・キャットを小突き回す。手を伸ばしても互いの体は指先をかすめてすりぬけ、捕まえられない。
これほど危険が迫っていなけりゃあ、面白い眺めだったのかもな。
でも、今は笑うどころじゃない。
なぜなら、今しも暗やみ団地の玄関ドアが、千切れて吹っ飛びそうだから。そのすぐ前にワイルド・キャットがいるから。当たれば死ぬからだ。
冗談じゃない。そんな事させるか。死なせないぜ、絶対。
思い一つで事が為されるなら、俺は水の上だって歩けたろうよ。気持ちは焦れど、体が進まない。風の抵抗が強すぎる。
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