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ワイルド・キャットはフラフラそこらを彷徨いながら手で髪をかきむしり、
「無い、無い、無い!無くなっちゃったよう!」
と叫び続けている。だから、なにが無くなったってんだよ?
ザアアアアー!雨が激しくなり、まるで上下左右から滝が吹き出しているかのようだ。
その、ものすごい騒音の中でも、ワイルド・キャットの次のセリフは、はっきりと聞こえてきた。
「なんてことすんのよ、このトンマ!」
エエーッ?命を救ったヒーローに、その言い草?何で?どうして?意味わかんねえ。お前こそトンマだ!
出来ることならケンカを吹っかけたいところだけど、出来なかった。
どこからか、ガッシリとした大きな手が伸びてきて、俺の襟首を引っ掴み、ワイルド・キャットの襟首も引っ掴み、俺達がすっ転ぶのも構わず、ロトン・アレーを引きずりだしたんだ。
暗やみ暖地のホールに放り込まれて初めて、手の主が誰だかわかった。ワイルド・キャットの親父さんだ。
外ではまたズドーンと雷が落ち、俺とワイルド・キャットの頭にはゲンコツが落ちた。
やっぱり俺は、ヒーロー向きじゃないんだな。
3・
結局その日、俺は暗やみ団地に泊められた。危ないからってことだったけど、海のかなたに吹っ飛ばされた方がマシだったよ。
おかげ様で、俺は一晩中ずっと、ワイルド・キャットになじられ続けるハメになった。
そのワケ、教えてやろうか。
暗やみ団地でも悲しみ団地でも、子供達はそれぞれ一つずつ、宝物箱を持っている。
昔は集合ポストとして使われていたヤツ。見たことあるだろ?玄関ホールの壁にズラーリと取り付けられてる、銀色の箱さ。
俺達は、どれだけ見栄を張ったところで金持ちには程遠いから、大した物は入ってないけど、自分にとって大切な物をしまってあるんだ。
この日、巨大台風の巻き起こした強風が、暗やみ団地の壁穴(自慢じゃないが、ハンパな数じゃない)から舞い込み、渦を巻いて、そのままワイルド・キャットの箱を直撃した。
あいつの箱は壁から引き剥がされて外に吸いだされ、蓋が壊れていたもんだから、その中味をまき散らしながら飛んでいっちまったんだ。俺の頭をかすめていったのは、この箱だったんだな。
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