血染めのコンパ

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「わたしも」  花園紀子がボソッと呟き、座布団から腰を上げ立ち上がる。妙に俊敏なその動きに、両サイドの男は目を丸くし、紀子を見上げている。  高級焼き鳥店の個室のドアを開け、紀子は廊下へと出た。飛び石が不規則に並ぶ廊下の突き当りにトイレはある。紀子は前方を見つめながら、ゆっくりと前進する。すると、トイレの扉が開かれ、中から雅春が姿を現した。 「あれ、紀子ちゃんもトイレ?」 「まぁ……」 「あのさぁ」雅春が切り出す。 「実は俺、紀子ちゃんのことがめっちゃ気になってて――良かったら連絡先、交換しない?」 「今日はそういう目的で来たんじゃないんで」紀子は言う。 「ん? どゆこと?」 「今日は、(かたき)を取りに来たんで」  紀子は静かに吐き捨てると、カバンの中からナイフを取り出した。 「は? ちょっと待てよ!」慌てふためく雅春に、紀子は言い放った。 「わたしの妹を弄んだ悪魔。アンタに無茶苦茶にされた挙げ句、捨てられた妹は死を選んだ。悪いけど、アンタには死んでもらう」  憎悪を込めて握りしめたナイフを、雅春の腹に突き刺した。死ね――と呟きながら、何度もナイフをめり込ませる。激痛を味わっているだろう雅春の叫びは、声にもならない。  意識を失った様子の雅春は、紀子に身体を預けるように倒れ込む。ヒラリとそれをかわすと、雅春の身体は衝撃音とともに廊下に崩れ落ちた。  ざまあみろ――口元だけを動かしながら、怨念を浴びせかける。紀子は血にまみれたナイフをカバンにしまい込んだ。  ドアを開け、紀子が個室へと戻る。雅春が戻ったと勘違いしたのだろう、ヘラヘラとした視線が送られた。肩で息をする紀子の様子に、全員が困惑の表情を浮かべている。 「アンタたち、アイツのこと、取り合いしてたんでしょ?」  紀子がふたりの女を指差す。冷徹な迫力に気圧(けお)されたのか、明香と佳代は反射的に頷いた。 「だったら、わたしの勝ちだね」  紀子は血まみれのナイフをテーブルの上に放り投げた。  事態を察知した男たちは雅春の名を叫びながら飛び出して行き、甲高い悲鳴を上げる女たちは、逃げ惑うように個室から出て行った。  ひとり残された紀子はため息をつきながら座布団に坐る。テーブルに運ばれたまま取り合いにもならず、手つかずのままのポテトフライを1本つまみ、添えられたケチャップとナイフの血を交互に眺めてみた。
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