9人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
1
自分の部屋から見える雨を眺め、5分経った。ノートの計算式は埋まらないし、聞いていた流行の曲は飽きはじめている。スマートフォンを弄っていると、とある配信サイトを見つけた。
「・・・・・・だれでもスマホ一つでLIVEスタート?」
カーソルを動かしながら内容を見ていく。歌ってみた、朗読、怪談、ASMR・・・・・・。受験勉強のBGMに合うものはないかと眺めていると、ある名前に目が止まった。
「『【弾き語り練習中】ナオキ』・・・・・・まさか、直樹先輩?」
ただ同じ名前なだけかも、と思いつつもイヤホンをはめる。そして、画面を開くとギターの柔らかい音が響いた。この前ギター始めたっていってたような、でも、この人は結構上手だし。しばらくして、配信者が歌い始める。
この人、やっぱり直樹先輩だ。
確信とともに笑いがこみ上げてくる。鼻から抜けるような声にリズムがズレた歌い方。苦しそうなサビの手前に最早聞こえないサビ。
相変わらず下手だな、直樹先輩は。
去年の出来事が頭をよぎる。先輩が部活を引退、そのお疲れ様会と称してカラオケに行った。思い出の中の直樹先輩はソファから立ち上がり、マイクを片手に歌い上げる。部活のメンバーはタンバリンを振りながら「へたくそー!」と冗談交じりに言って盛り上げた。直樹先輩も「うるせぇ」と笑って返す。
ふと正面にある参考書や教材の山が目に入り、ため息をついた。また、あのときみたいに騒げる日が来るのかな。そのために今、頑張らなきゃいけないってことか。
渋々、ナオキ、おそらく直樹先輩の歌声を聞きながら勉強を再開した。参考書とノートを見ながらシャーペンを走らせる。
ナオキの歌声は今後に対する不安を忘れさせてくれた。彼がそばにいるような気さえがする。ふと我に返り顔が熱くなった。何を考えているんだろう。これじゃ、まるで彼のことが・・・・・・。恥ずかしくなってきて思わずスマートフォンの電源を切った。
最初のコメントを投稿しよう!