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 先月からは信じられないほど、暑くなった夜。参考書やノートは開いているものの、一番見ていたのはスマートフォンだった。ナオキの歌声が流れる中、画面には次々と数字の入った金貨が表示される。 「よし、これで1位に・・・・・・え、また抜かれた。なんで・・・・・・まだ足りないの」  財布からまだ使用してないプリペイドカードの数字を入力し、『LIVEコイン』に換金した。そして、ボタンを押すと1000と書かれた金貨が表示され、ファンランキングが上がっていく。しかし、すぐに別の『LIVEコイン』が表示され、ファンランキングが切り替わった。こいつらいくら持ってんのよ。私の財布にはすでにお金ではなく使用済みのプリペイドカードで膨らんでいた。  画面を見ていると、今度はコメントが表示される。 『この配信コイン絶対なんですか?』  初めて聞きに来た人なんだろうか。そのあとも、同じようなコメントが並ぶ。 「いや、そういうわけじゃないんですけど、なんか皆さんコインくださって」  ギターを弾くナオキの声は苦笑いをするように震えている。すると、また数字の書かれた金貨が表示された。 『わたしはナオキさんのことを応援したいだけなので♥ みなさんは無理しないでくださいね』 「アンタが煽ってるようなもんでしょ! あと、またハート付けるな」  その一言にまた腹が立ってくる。そのとき、ギターを弾く音がやんだ。 「ちょっと待って。あの、『LIVEコイン』もらえるのは嬉しいんですけど、これで生計を立ててるわけではないのでそんなにいらないというか」  ずっと何かしらコメントが流れていた配信画面に動きがなくなる。 「聞いてもらえてるだけでもありがたいし、感想とかコメントとかで十分なんで。申し訳ないんだけど、『LIVEコイン』はそんなにくれなくて大丈夫です」  真面目なときの妙に回りくどい言い方、やっぱり先輩だ。肩を落とすと同時に部活の説教を思い出し懐かしくなる。 「・・・・・・なんか変な空気にしちゃってごめん。じゃ、気を取り直して」  そう言ってナオキは再び弾き語りを始めた。すると、上に表示されている視聴者の人数が減っていく。 『応援してたのに、そんな言い方するなんて幻滅しました』 『今更いらないとか最低』  並ぶコメントに私ですら胸が痛んだ。それでもナオキは歌い続ける。そして、一曲終えたときには視聴者は半分以上減っていた。 「き、今日はこの辺りでお開きにしましょうか。聞いてくださってありがとうございます・・・・・・」  挨拶をすると、画面に配信終了と表示される。それ以降、弾き語りの通知が出ることはなかった。
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