雨の日の通り魔

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「そのパスケースって本革でしょ。 高そうだよね」 「ちょっと高かったよ。 でも、電車通学してるからパスケースは毎日使うじゃん。 だから、お父さんにおねだりしたの」 「美紗ちゃんの家はいいなぁ。 優しいお父さんがいてさ」 「そう言えば亜希の家って、両親の仲が悪いって言ってたよね」 「そうだよ。 いつもケンカばかりしてる……」 亜希はそう言ってため息をつくと、つぶやくようにこう言った。 「特に雨の日は最悪なんだ。 お父さんの仕事が休みになって、朝からお酒を飲んでいるから……。 私もあんな家じゃなくて、美紗ちゃんみたいな家に生まれたかったな」 「亜希、そんな暗い顔しないでよ……」 美紗はそう言うと、明るい笑顔で亜希の顔をのぞき込んだ。 そして制服のポケットからもう一つ赤色のパスケースを取り出した。 「じゃーん。 これ見て」 「さっきと同じパスケース……。 どうして二つも持ってるの?」 「お父さんにおねだりして、亜希の分も買ってもらったんだよ。 私の大切な友達だからって」 美紗はそう言うと、高価そうなパスケースを亜希にそっと手渡した。 「ありがとう、美紗ちゃん。 これっ、本当にいいの?」 「お揃いのパスケースは私と亜希が友達の証だよ。 そのパスケースを見る度に私のことを思い出してね」 「ありがとう。 大事にするね。 こんな私に優しくしてくれるのって、美紗ちゃんしかいないから……」
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