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午後6時。
美紗は予備校の授業を終えて、自宅へと向かっていた。
まだ強い雨が降っていたので、美紗は真っ赤な傘をさし、ひと気のない道をうつむきながら歩いていた。
亜希とおそろいの赤いパスケースのことを考えながら……。
でもそのとき、背後から足早な足音が聞えて、美紗はその足音が気になり頭を上げた。
そして美紗がその足音の方を振り返ろうとしたとき、脇腹に何かが突き刺さり、美紗は猛烈な痛みを感じていた。
美紗は苦痛に顔を歪めながら、激痛が走る脇腹に目を向けると、そこには大きめのナイフが深々と刺さっていた。
(もしかして、雨の日の通り魔……。
でも、どうして私が……)
理不尽な事件に巻き込まれた運のなさを思いながら、美紗は自分を刺した犯人に目を向けた。
「ウソ……。
どうして……」
美紗をナイフで刺したのは、白いレインコートに身を包んだ亜希だった。
美紗は雨の日の通り魔が亜希だとわかり、友達に裏切られた絶望の中でこう言った。
「何で私なの……。
私達は友達なのに……」
「美紗ちゃんがいけないんだよ。
私が美紗ちゃんを選んだのには理由がある」
亜希はそう言うと、美紗の脇腹に刺さっているナイフを更に奥へと突き刺した。
「私がどうしようもなく不幸なのに、美紗ちゃんは幸せで本当にズルいよ。
そんな不公平を私は絶対に許せない!
美紗ちゃんなんて、死ねばいいんだ!」
美紗はそう言った亜希の顔を失意の中で見つめていた。
そして美紗は雨が激しく降りつけている道路にうつ伏せに倒れ込んだ。
亜希は道路に倒れて動かなくなった美紗を見て微笑むと、行くあてもないままに、雨の中を歩き出していた。
自分には美紗のような幸せな家庭がない。
そんなことを思いながら……。
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