風紀委員長の平穏な日常

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風紀委員長の平穏な日常

ジリリリリとなる目覚まし時計を止め、ノソノソとベッドから起き上がる。眠くて大きな欠伸が出た。 どうもおはようございます。 俺は羽佐間(はざま)(かえで)。某財閥の御曹司であり、この学院の特待生で風紀委員長だ。 さて、そろそろ朝食を作るか。 部屋を出て昨日焼いて置いたパンを取り出す。こう見えても俺って料理男子だ。 目玉焼きを焼いていると、俺の部屋の隣にあるドアが開いた。中からクッソイケメンな男が色気ムンムンで登場する。 コイツは久城(くじょう)(つかさ)。俺の幼馴染で親友。自他共に認める才色兼備で、つい先日行われた人気投票で見事上位に入り、生徒会入りを果たしたルームメイトだ。無論、親衛隊持ちである。 …どうせ俺はコイツに負けますよーだ。 親衛隊なんて持って無いし、勉強は負けるし、どうせ俺は学年次席の風紀委員長ですよー。あ、武闘なら勝てるわ。 「はよー。」 「おはよ。朝の挨拶ぐらいしっかりしろよ。」 「いいだろ?別に通じてんだから。今日の飯何?」 「パンだよ。コーヒー淹れてくれ。」 「了解。」 司にはコーヒーを淹れて貰い、俺は目玉焼きとパンを皿に盛り付けた。無論ソーセージも忘れない。 殆どの生徒は全ての食事を食堂で済ませるが、何と言っても高等部だけで500人を超えるマンモス校である。そこに親衛隊持ちの司が行ったら騒がれるのは必須。それが嫌な俺達は基本自炊を心掛けている。 朝と昼は俺、夕食は司の担当だ。 皿をリビングにある机の上に置き、2人で対面になる様席に座る。 「さて、頂きます。」 「いただきます。…んめ〜!」 「そりゃどうも。」 俺も食べる。うん。いい出来だ。 「…平和だねー。」 「でも、そろそろ聴こえてくるぞ?あの雄叫びが。」 それと同時にどこか遠くの方から男どもの叫び声や雄叫びが聞こえて来た。聴こえてくる場所は此処から10階も下にある食堂。そして叫んだ理由はみんなのアイドル、生徒会が登場したからである。 「朝からご苦労だなー。ホント、アレを聞くと自炊してて良かったって心底思う。」 「同感だ。」 朝食を終え、2人で食器を片付けて登校準備に入る。高等部の制服はスラックスに白ワイシャツ、学年毎に色が違うネクタイに黒のブレザーとごく普通の物だが、素材は一級品。更に、特待生には胸元に校章の金の刺繍が施されている。無駄に豪華だ。 リビングで幼馴染の登場を待っていると、先程の色気を残しながらビシッと決まっている司が登場した。地毛が金髪だから制服が似合う。 マジイケメン滅べ! 「行くぞ。」 「あぁ。」 高級ホテルを思わせる寮から出ると同時に視線を集める。勿論、司がだ。 「久城様と羽佐間様だ!」 「キャー!カッコいい!」 キャーって、どっから声出してんの? 「相変わらずお美しい…」 「今日こそ親衛隊を作らねば!」 司は最後の言葉にピクッと反応する。 そういえば、最近ある人の親衛隊を作りたいって生徒会室に押し掛けてくる人達が居るとか。一体誰なんだろう? 「司、最近新しい親衛隊が出来るかもって言ってたけど、誰の親衛隊なんだ?」 「お前だよ。」 「…は?」 「だから、お前の親衛隊を作りたいって毎日申請書を提出してくるんだよ。」 「俺⁉︎いや無い無い無い!司ってばからかうのはよせよ。こんな俺に親衛隊なんて付くわけ無いだろ?」 「…ボソこの無自覚が。」 「なんか言った?」 「何でもねぇよ。ほら、教室入るぞ。」 横開きのドアを開けると、一瞬教室が静かになり、そして一気に騒がしくなる。 「久城様に羽佐間様!おはようございます。」 「おはよー。ほら、司も挨拶。」 「…ボソはよ。」 そこで俺は驚く。と言うか全員驚いた。 いつも俺が言っても挨拶しない癖に、今日は挨拶をしただと! と言うか、気を許した相手じゃないと全く口を効かない司がクラスに挨拶だと⁉︎ …今日は天変地異でも起こんのか? そんな俺達の視線に気付いた司が不思議そうに首を傾げる。いや、お前の所為だよ。 「んだよ。なんかあんのか?」 「いや…お前がクラスメイトに挨拶って…」 「しちゃ悪りぃのかよ。」 「とんでもない!明日はもっと大きな声でな!」 ニヤリと笑って背中を叩くと、恥ずかしそうに顔を赤らめた。ねぇ、本当に今日なんかいいことでもあった?いつものポーカーフェイスはどこ行った。 その顔の所為で一部始終を見ていたクラスメイトが鼻血を流した。中には倒れる人もいて、俺は慌てて司と共に席についた。俺の席は所謂主人公席で司はその一個前の席だ。 席に着くと同時に先生が入ってくる。 金髪に染め上げてピアスをしているチャラい担任だ。 「おー羽佐間。そんな締まらない顔して、今日は何か良いことでもあったかー?」 そして毎日俺か司に絡んでくる。 今日の俺の顔は緩んでいる。だが仕方がない! 親友の成長を目の当たりにしたのだから! 「司が…司が挨拶した!クラスメイトに!」 その瞬間、咥えていたペロペロキャンディを口から落とした。汚ッ! 「お前それ、マジかよ!」 「マジですよ先生!俺達ちゃんと聞いてました!小さかったけど!」 クラスメイトの証言もあって信用された。司はその間恥ずかしそうに窓の外を眺めている。 「よーし久城。俺にも挨拶しろ!」 「断る。」 「即答かよ!まあ良い。今日の連絡はないな。んじゃかいさーん。」 締まらない朝会が終わり、俺達は真面目に授業を受けた。俺と司は特待生特権で授業免除対象者であるが、成績が落ちれば特待生も取り消しになるので基本的真面目に受ている。 そして昼。俺と司は人の居ない穴場スポットである雑木林の中にいた。此処は防犯カメラが設置されていないので、よく生徒達が校則違反を犯す場所である。風紀委員長としての見張りも兼ねて此処で毎日食事している。 「そういや来週、転校生が来るってよ。」 「転校生?今5月だぞ?」 俺は卵焼きを口にしてご飯をかきこむ。 司はそう頷くと、水筒に入れてきた味噌汁を飲んだ。 「ああ。何でも前の学校で暴力沙汰起こして退学。そこで彼の叔父さんの理事長が裏口入学で此処に引き入れたんだとよ。」 「…マジ?」 「マジマジ。」 「止めてくれよ…そんな問題児入ったら仕事増えるじゃんか。」 「ホント、執行部もあまり良い顔してなかったぜ。でも理事長が彼を溺愛してるらしくって、下手に言えねぇんだと。」 俺も味噌汁を飲む。うん。美味い。 「理事長の甥、ねぇ…なら成瀬にも情報収集頼もうか。アイツ以上の情報のプロは居ないし。」 「また執行部のネットワークに入るなよ?アレ、収束するのに結構かかったんだからな。」 「念を押しとくよ。ご馳走様でした。」 「ご馳走様。教室戻るぞ。」 「ハイハイ。」 そして今日1日は何も無く平穏に終わった。
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