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花いちもんめ
学校が休みに入った。なんてすることもなかったので、田舎に帰ることにした。一人暮らしの祖母は温かく迎えてくれた。
夕食を終え、居間でテレビを見ていたら祖母が唐突に言った。
「ミキちゃん、花いちもんめって、知ってる?」
そういう遊びがあることは聞いたことがあった。でもどういう内容なのかはわからない。だから知らないと答えた。
「そう。今の若い子は知らないのね」
祖母はしみじみと言ってから、その説明をする。
「花いちもんめはね、子供たちが二組に分かれて、相手の組の子を取り合いする遊びなの」
「取り合い?どうやって?」
「歌に乗せて互いの組の誰かを指名するの。それからじゃんけんして、勝てばその子をもらえるのよ」
「へぇ。お祖母ちゃんもやったことあるんだ」
「もちろんよ。子供の頃にね。でも花いちもんめで思い出すのはミサキちゃんのことなのよねぇ」
祖母が表情を曇らせた。何か事情があるのだろうか。
「その、ミサキちゃんがどうかしたの?」
「ちょっと変っていたのよ。いつも一人で、時々独り言を言ったりして。ある日、神社の前を通りかかったら、境内でミサキちゃんが花いちもんめをしていたの。普通、この遊びは大勢でやるものなのに、あの子はたった一人でやっていたわ。気味悪く思いながらもしばらく見ていたら、急に消えちゃったの」
「消えた?って、どういうこと?」
「だから、消えたの。目の前から急に。その後、ミサキちゃんが神隠しに遭ったって大騒ぎになったんだけど、私は何も言えなかった。だって、言ったって信じてもらえるわけがないでしょ。突然目の前から消えただなんて」
確かにそうだろう。子供の突拍子もない発言は、たいていの大人には信じてもらえない。それがたとえ真実だとしても。
「結局ミサキちゃんは?」
見つからないままよと伏し目がちに言ってから、祖母はついと視線を私に向ける。
「あのね、私がこんなことを急に言い出したのには理由があるの」
「こんなことって、ミサキちゃんのこと?それとも花いちもんめ?」
「その両方。最近よく夢を見るのよ。あの神社の境内で、ミサキちゃんと二人で花いちもんめをする夢。いつも私が勝つんだけどね」
いったいなんなのかしらねぇと祖母が言ったところでテレビから歓声が聞こえてきた。見れば最近売り出し中のお笑い芸人が出ていた。
「あ、この人たち好きなのよ」
祖母がテレビに見入ったことでその話題はそれで終わった。
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