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―北原拓海―
夏のうだるような暑さがまた押し寄せてきた。
例年を越える猛暑を取り上げるニュース。コメンテーターの安っぽい言葉。カメラを前にへらへらと笑う通行人の顔が不愉快だ。
どれもくだらない。
テレビなんてオールドメディアをわざわざ表示しておいて悪態をつく。
電源を消して画面は真っ暗に閉ざされる。
気分を変えたくてテレビを点けたのに気分は余計に滅入りそうだった。
誰もいない部屋で自問自答。
どうして俺はこんなに気分が落ち込んでいるのか。
出発の時間まではまだ猶予がある。
グラスに淹れたアイスコーヒーは結露を溜めて机に水を滴らせる。
俺が考えるのはいつも同じこと。今まで考えないようにしていたこともいつも同じこと。
唯が考えることもきっと。
―西園唯―
夢をみた。変わらない夢。変わってくれない夢。それは二年前の過去。
有生に向かって伸ばした私の手は届くことはなかった。
有生は笑っていて、有生が犠牲になったから、今の生活がある。
その事実を一人だけ呑み込むことができなくて、いつまでも私はこの夢に囚われ続ける。解放されることも望んでいない。私は一生この夢を見続けたいと思っていたのに。
夢は変わった。変わってしまった。それは二年間隠された真実のせい。
有生は生きていた。
私たちがのうのうと生活をしている間もホライゾンと共に。
私は行かないといけない。
有生を犠牲にして生きていたこの二年間の償いを。有生が失った二年間を。
命に代えてでも取り戻してみせる。
―南綾子―
今日はかつてのホライゾン搭乗者四名が集合する。
二年前の事故によって、東里有生の戸籍は抹消。西園唯、北原拓海の両名は本人たちの希望を却下して東京への進学を強制させた。
私、南綾子はコアの調律作業を継続中。二年間の修繕成果は今後のホライゾン稼働状況によって評価が決定される。
西園唯、北原拓海への事情説明は骨を折ることだろう。
両名へ隠していた事実は彼らの信頼を損なうのに十分な価値を秘めていたのだから。
しかし。
少し肩の荷が下りたといえばそれは酷い話ではある。
―東里有生―
今日は特別な日。嬉しい日だ。
みんなに会える。
あの頃と同じ最高のメンバーでホライゾンを動かせる。
ああ、楽しみだ。みんな元気にしているかな。
僕のこと覚えてるかな。いや、さすがに二年くらいで忘れる訳ないか。
何をしよう?
昔みたいに自転車で山へ遊びに行くのもいい。バーベキューも楽しそうだし、花火もやりたい。
ホライゾンでの任務が終わったら、たくさん遊ぼう。今まで遊べなかった分も含めて、思い出をたくさん。
ああ、楽しみだな。
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