ある日『後輩くん』

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「アイス買ってもらおうと思って……、つか、やこじゃくて靖彦だっての」  大好きなイケメン後輩の前でノーとは言えないだろう。年下にも優しい、という点をアピールしたいはずだ。「こんなに寒いのにか?」とか言いながら駄目だという顔をするなら、この後輩を人質に取ってやる。 「先輩、弟さんですか?」 「いや、息子です」  必殺、俺の“外面だけは良い”攻撃。こんにちは、と挨拶をしながら颯爽と言ってやった。見よ、あつ子、この意地の悪い俺の顔を。 「あ、こんなに大きなお子さんがいたんですね」  イケメン、戸惑いの色が隠せない。それもそのはず、オネおじも俺の叔父さんなだけであって、まだ三十代なのだ。 「え、あ、いや」  オネおじよ、何故、イケメンと同じように戸惑っている? ただの親戚と言えば良いだろうに、へっ、この馬鹿めぇ!  俺はアイスのため、上げて落とす戦法に移らせてもらうぞ。 「冗談です、親戚のお兄さんです」  あんた、良い子に育ったじゃないのよぉぉぉぉぉぉおおお! というオネおじの心の声が聞こえてきそうだった。そういう顔して「そう、うん、そう」と頷いているのだ。 「あー、そうだよね、はははは」  人工的に作られた誤解が解けたらしい。爽やかイケメンというのは、こういう人間のことを指すのか。
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