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実験開始
今日は朝から雨が降っている。
私が初めて参加するSCP-548-JPの実験の日だ。
塚原さんによると、今回で実験は42回目らしい。
内容は、「塚原上級研究員が傘を持ち、彼の代わりに私が楽曲のリクエストをする」というもの。リクエストする曲は、勿論、ショパンの『練習曲作品10第3番ホ長調』。
指定された中庭に出て、彼が傘を広げる。
ぽろん……とピアノの音が、雨に紛れて聞こえた。
「すごい……」
資料で読んで、実際に動画サイトで『練習曲作品10第3番ホ長調』を聞いてみたのだが……この音色は、なんだか楽しそうに感じる。その演奏を、とても楽しんでいるような、そんな雰囲気だ。
「演奏」が終わり、拍手を送る。
素人の私が聞いてもわかる。この傘は、SCP-548-JPは、演奏を楽しんでいる。
「もう一度、ショパンの『練習曲作品10第3番ホ長調』を弾いてください」
リクエストをすると、少しだけ演奏技術が上がったらしいピアノの音色が中庭に響く。
雨が止まなければいいのに。
雨が嫌いな私だが、柄にも無く、そんなことを思った。
実験の結果は、“被験者でなくてもリクエストは有効。また、1人で実験していた時に比べて音色が活発であったことから、今後の実験は助手が参加する”。
つまり、私は今後も塚原さんの助手として、この異常存在の実験に関わることになったのだ。
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