実験開始

1/1
前へ
/12ページ
次へ

実験開始

今日は朝から雨が降っている。 私が初めて参加するSCP-548-JPの実験の日だ。 塚原さんによると、今回で実験は42回目らしい。 内容は、「塚原上級研究員が傘を持ち、彼の代わりに私が楽曲のリクエストをする」というもの。リクエストする曲は、勿論、ショパンの『練習曲作品10第3番ホ長調』。 指定された中庭に出て、彼が傘を広げる。 ぽろん……とピアノの音が、雨に紛れて聞こえた。 「すごい……」 資料で読んで、実際に動画サイトで『練習曲作品10第3番ホ長調』を聞いてみたのだが……この音色は、なんだか楽しそうに感じる。その演奏を、とても楽しんでいるような、そんな雰囲気だ。 「演奏」が終わり、拍手を送る。 素人の私が聞いてもわかる。この傘は、SCP-548-JPは、演奏を楽しんでいる。 「もう一度、ショパンの『練習曲作品10第3番ホ長調』を弾いてください」 リクエストをすると、少しだけ演奏技術が上がったらしいピアノの音色が中庭に響く。 雨が止まなければいいのに。 雨が嫌いな私だが、柄にも無く、そんなことを思った。 実験の結果は、“被験者でなくてもリクエストは有効。また、1人で実験していた時に比べて音色が活発であったことから、今後の実験は助手が参加する”。 つまり、私は今後も塚原さんの助手として、この異常存在の実験に関わることになったのだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加