いつかの通り雨

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いつかの通り雨

 ずっと前、高校生だった頃にちょうど今日みたいな予報外れのどしゃ降りの雨にあたったことがあって。  その日は委員会の仕事のあと、片付けをして鍵を職員室に返したりしていたから、一緒に帰る友達もいなかったし、貸し出し用の傘立ての中には骨の折れたまま突っ込まれているものしか残っていなかった。  親はまだ仕事をしてる時間だったし、迎えにきてもらう訳にもいかなくて、濡れて帰るしかないのかなー なんて思いながらひとりで学校の玄関からぼんやりと外を眺めてたんだけど、そこに重そうなスポーツバッグを肩にさげた部活終わりらしい男子がひとり。知らない子だけど上履きの色から一つ下か。  その子がバッグから折りたたみ傘を取り出したところで、わたしに気付いてー  ちょっと迷ったり考えたりした感じのあと何か意を決したようにわたしのほうへ歩いてきて、 「これ、使ってください!」    そう言ってわたしが胸に抱えたカバンの上からその傘を押しつけるようにすると、彼はそのままスポーツバッグを頭にのせた格好で雨の中を駆けだしていってしまったのだった。  突然のことで え?え? といった感じにうろたえてしまったわたしはその場で返すこともお礼を言うことも出来ず、後日、お礼が言いたくて彼の姿を探したけど見つけられないまま、受験期間に入り登校することも少なくなってそのまま卒業した。  だから、本当に驚いたのだ。大学を卒業して入った会社で彼を見つけたときには。もっとも彼は出身高校が同じという事を伝えてもピンとこないようで、そんなことは全く覚えていなかった。  秘密、ではないけど言いそびれてしまって、それは今もそのままに大切にわたしの内側にとってある。   仕事で一緒になる機会がそこそこあって、不器用だけど誠実で実直な面はまったく変わってなくて、プライベートでも一緒になる機会が増えて、それからわたしの方からから告白して交際するようになった。  彼は「どうして俺なんかと付き合う気になったんだ」とか時々言うけれど、それは適当に全部はぐらかしているし、「俺って、ぶっきらぼうだし、地味だし」「知ってるよ」というようなやり取りは普段から結構ある。   知ってるよ、ずっと前から。 そういうところもそれだけじゃないのもー                 ー完ー
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