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プロローグ-18歳の夏の日に-
少女は大人になってゆく。そこには怠惰な交わりも、破れるような夢もない。只々、時間が過ぎたのだ。
ため息をひとつ、バスがつく。やがて、のろりと動き出す。過去の少女は永遠に、バス停で置き去りにされたまま。
それは、暑い々々、夏の盛りのことだった。真っ赤な夕暮れの中で今、鉄枠の車窓の先にある青い稲穂が揺れるのを、じっと瞳に焼き付ける。自分の中の、何かが終わりゆく感覚を、 奥歯でぐっと、噛み締めながら。
山から、風が降りてくる。それを裾野の稲穂が受ける。それと連動するように、まるでドミノ倒しの要領で、彼女の方へと頭を揺らす。その風景が、何故だか彼女を離さなかった。
それが何を意味するのかは、きっと誰にも分からない。けれども妙に懐かしく、その日の彼女は思うのだった。
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