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そしてただ、私は浮力に任せて浮き上がる。星空の一部になるように。月の引力にひかれるように。あれだけ、前へと繰り出した、身体はもう動かない。
そうして、身体が水面を割ってしまうと、月や星は夜空へ戻る。さっきまで、あんなに近くにあったのに。今はもう、私の手の届かぬ場所にある。
けれども不思議と、悲しくはない。私が浮かぶ水面の下、たしかにそれらがあることを、私はちゃんと知っている。大きく深呼吸をして、そんなことを考える。
その時、急に笑いがこみ上げた。最初は控えめにクスクスと、やがて大声で笑い出す。何が、面白いかなんて、私はわかっていなかった。否、誰もきっとわからない。けれども笑いは湧水のように、私の胸から溢れ出す。笑い疲れたその後で、私はまだ、浮力に任せてただよっていた。
水面で揺らめき、私は思う。さて、これから何しよう。
まぶたを閉じる。何も思い浮かばない。強いていうなら今はただ、力を抜いて浮かんでいたい。
遠くで、夜虫が鳴き出した。彼らは告げる。直に秋が来ることを。そうして季節はめぐるのだ。
そのようにして、次第に大人になってゆく。只々、時間が過ぎたのだった。
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