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図書館から出ると、かすかに空が色づいていた。熱気をはらんだ風が吹く。けれども、昼よりは熱くない。
「遙って変わったよね」
ぼうっと、空を眺める私に優菜は言った。
「どうしたのよ、いきなり」
「いや、なんとなく。むかしの遙って、もう少しエネルギッシュだった気がして」
優菜の言葉を聞きながら、以前の私を思い出そうと努力する。
「そうだった?」
首を傾げて聞き返す。
「なんかさ、水泳部の部活でも、あんたなんかこう、ハツラツとしてて、清く正しく、猛烈熱血みたいな、そんな感じだったじゃん?」
「あぁ・・・」
相槌を打つ。けれども腑には落ちてこない。 遠い記憶と今の私が、何故だか妙に繋がらない。
「それが最近どうしたの?なんか口数は少ないし、部活やめてから生きがいを失ったりしたわけ?」
「どうなんだろう」
水泳。たしかにそれは、大事なものではあった。けれども、生きがいだったというわけでもないような。
「何?恋?水泳部の元熱烈部長様、恋愛発覚ですか?」
優菜は楽しそうに、私の前に身を乗り出して、にこりと笑ってみせた。
「ちがうよ」
私は苦笑いを彼女に返す。そして少し考えて、私はぽつりとこう言った。
「大人になったんじゃない?」
優菜は頬を膨らませ、不服な視線を私にそそぐ。
「やっぱり、恋愛沙汰じゃない」そう言って彼女は脇腹を小突く。
「違うわよ、大人になるって言っても、きっといろいろあるのよ、いろいろ」
「じゃあさ」
優菜は少し口籠る。そしてにこりと笑ってこう言った。
「ううん、やっぱりなんでもない」
「何よそれ」私も笑って見せてみる。
けれどももう、その時既に、彼女は笑っていなかった。そしてふと、我に返ったように微笑んで、速足でバス停へと向かいだす。夕暮れが、彼女を覆い隠すように沈んでく。 私はすっかり伸びた影をみながら、彼女と夕日を見送った。
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