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真夏の暑さが、朝から体にのしかかる。あまりに重くて目が醒めた。時刻は午前八時半。嫌気と眠気に一瞥をくれて、私は布団から抜け出した。
「おじいちゃん」
私の声は日本家屋の襖と襖、その奥の日陰に消えてゆく。返事は帰ってこなかった。
何故だか無性にさみしくなって、縁側に座り、空を見る。入道雲が、やけに近くに見えていた。さっき感じたさみしさが、私の中へ入り込む。そのうち、なにかが足りないような気分になって、周りを不安げに見渡した。何も、いつもと変わらない。蝉が近くで鳴き出して、夏の暑さが加速する。
その時、私は思い出す。あぁ、そうか。この季節のこの時間、プールサイドに居ないのが、私の違和感の正体だ。私の打ち込んだ水泳の時間、それを忘れていたことに、苦笑いがぐっとこみ上げた。
「おお、遙。起きてたか」
祖父が、垣根の向こうから顔を出す。
「おはよ」
「うん、おはよう。今お隣の田中さんから、これ、キュウリとトマトもらったから、食べよう。採りたてってのは、何でもうまいもんだ」
「いいね、食べる」
「そのまま食うか?」祖父は私の隣に腰かけて、にやりと笑ってそう言った。
「うん、そうしよっか」
私がそういうと、祖父は嬉しそうにはにかんで、「ばあさんは行儀悪いって、やらせてくれなかったからな」と言った。
「じゃあ私、それ洗ってくるね」
「うん、じゃあ氷水に浮かべて冷やそうか。私はそっちを用意してこよう」
そう言って祖父は、桶を探しに家の奥へと消えてゆく。
「ああそうだ、遙、キュウリにつけるの、味噌と塩、どっちがいい?」
私が庭先の水道で、野菜を洗っていると、家の奥から声がした。私はなるだけ、大きな声で返事を返す。
「どっちもー!」
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