遺書

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遺書

「今日は朝から雨が降っている。 ラジオの天気予報曰く、この先3日は降り続くらしい。 今までは雨が嫌いだった。 今のような梅雨の時期の雨は、ジメジメするし憂鬱な気分をさらに加速させてきて、特に嫌いだった。 でも今日に限っては感謝している。 雨は何もかもを洗い流してくれる。 太古には雨は穢れを落とすとして、新しく天皇が即位する時に雨が降ると縁起がいいとか言われていたそうだ。 そして今日も。 この後この雨は、ちっぽけな私の穢れを洗い流してくれるはず。 私は読者モデルとしてデビューして、1年と経たないうちにテレビに出られるようになった。 その後ドラマの出演やバラエティ番組のゲスト出演なんかで知名度を上げ、有名人になっていた。 別に天狗になっていたわけでも、調子に乗っていたわけでもない。 だって私は自分がこんなふうになるとは思っていなかったから。 でも人気が出ると、賞賛の声と共に誹謗中傷が出てきた。 もちろん賞賛の声の方が数は多いだけど、張本人に大きく届くのはやはり誹謗中傷の方だ。 死ね。 殺す。 面白くない。 ブス。 見たくない。 テレビ出るな。 〇〇と喋るな。 〇〇の視界に入るな。 〇〇と同じカメラに映るな。 地獄に堕ちろ。 犯してやる。 歌を歌えば、〇〇さんの方が上手い。 演技をすれば、〇〇さんの方が良かった。 ファッションショーに出れば、ダサい、〇〇が着た方が似合う。 意味のわからないものから、明らかに悪意のあるものまで、上げだしたらキリがない。 こういったネットの言葉に対して、当初はあまり気にしていなかった。 暇な人がいるんだな、馬鹿らしい、と思っていた。 いや、そう思うようにしていた。 そうしないと心が持たない。 だが、それも限界だ。 何かの漫画で言葉は刃物だって言葉があったけど、まさにその通りだ。 私の心はもうこれ以上耐えられないほどに、完全に刺され切り刻まれた。 私はこれから死ぬ。 自らこの呪われた人生を終わらせる。 今日から3日間降り続く雨は、きっと私の血と私の命と私への心無い言葉達を、綺麗に洗い流してくれるだろう。 私に刃物を投げつけてきた人達は何を思うだろう。 悲しむだろうか。喜ぶだろうか。あるいは無関心だろうか。 矛先を別の人に向けるかもしれない。 それは避けたい。 だから、ここで告発します。 以下は三日三晩かけて纏めた、私に誹謗中傷を送った全てのアカウントのIDです。 もちろん逃げられないように、1人1人他のアカウントや別のSNSのアカウント、わかる人は住所や学校、職場、本名なんかもまとめています。 大人げないとか言われるんだろうけど、私まだ子どもだし、死ぬんだから関係ない。 さあ、1人の女子高生を言葉で殺した殺人鬼共。 因果応報だ。地獄に堕ちろ。」
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