成長

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成長

次の日、クリネはほんの僅かな不安を抱きつつ、集合場所となっていた公園へと足を運んだ。 樹木が道に沿って植えられ、広場や、噴水、スポーツのできるスタジアムなど、豊富な設備が地域住民に好評である。 クリネの自宅は、この公園に近く、この場所を提案したのも彼女だった。 因みに、彼女は私服を着ていた。 そこには、予定時間の5分前に着いたというのに、やはりこちらも私服のルクの姿があった。 出会った時から、ずっとは身につけている。 「あっ、待ちました?」 「大丈夫です。僕も今来たばっかですよ」 このやり取りは、傍から見るとと思われるのを2人は気づいていない。 「似合ってますよ、そのネックレス」 「ほんとですか?」 取り敢えず、褒めることにした。ずっとつけているということは、それだけ大切なものなのだろう。 会話のきっかけにでもなればと思ったのだ。 「これ、自分の師匠の手作りなんですよ」 「へぇー、器用なんですね。その師匠さんは。きっと繊細な方なんでしょうね」 「アハハ……」 ルクの笑いが少し引き攣っていたようにも見えたが、気のせいだろう。 そのあとも、他愛ない会話を続けた。 キリのいいところで、クリネが最も聞きたかった話題を始める。 「それで、どうだったんですか?ハンターにはなれたんですか?」   どうしても、少し嫌味っぽい声音になってしまう。 言外に、ハンターになるのは無理だっただろう?と言っているようなものだ。 それくらい、ハンターとは一朝一夕になれるものでは無いのだ。 だが、彼の反応はクリネの予想を遥かに裏切るものだった。 「ええ、なれましたよ。それも、筆記試験は省略してもらいました」 軽く言葉を失うクリネ。 目の前の少年は、「朝食にパンを食べました」と言うくらいの気軽さでものを言っている。 (わ、私のあの努力はなんだったの?) 現実が受け入れられなくて、困惑するクリネ。 「?」 その様子にルクは、訳が分からないと言わんばかりに首を傾げる。 「い、いえ………よ、よ、良かったですね!ハンターになれて」 「でも、駆け出しなことには変わりないです。いろいろ教えてくださいね!」 突っ込みたい気持ちは山々だが、ここは先輩として我慢し、覚悟を決める。 「………分かりました!これも何かの縁です。一緒に頑張りましょう!」 「よろしくお願いしまーす!」 「あ、旅に行く約束もお忘れなく」 「は、はい……」 この約束も世間一般から見れば、と呼ばれるものであるということに2人は気づかないのであった。 ___ だが、少女ハンターの受難は幕を開けたばかりだった……! 市街地にて、 「え、国の地図は全部頭に入ったってどういうことですか!?」 「ベセノムだけじゃなくて、このルーベルニア大陸全てですよ」 今度こそ、理解不可能な領域に、彼女は突入した。  世界地図を暗記する。その事がどれほど無謀なことかは初等学校生だって分かる。 こんにち、この世界には地図と呼ばれる存在があると言うのに、 「そんなことする必要あります?」 「まぁ、道楽の一つですよ」 「えぇ……」 彼にとってはきっと、容易いことなのだろう。彼と出会ってまだ1日しか経っていないが、驚かされてばかりである。 出会いの時も、何故あんなところから現れたのか、分からずじまいだ。 時にとしてルクは、クリネの心を見透かしたかのような鋭い質問をすることがあり、彼女を驚かせる。 「クリネさんに、聞きたいことがあるのですけど」 「はい、なんでしょう?」 また、質問が飛んでくる。今度は、どんなものだろうかと内心ビクつきながら、続きを促す。 「クリネさんの装備って、なんていうか、旧式のものですよね…………いや、悪口を言うつもりは無いんですけど……」 「ああ、それはですね…」 当然の疑問だろう。この世界は魔導を発見してからというもの、驚異的なスピードで成長した。 とあるが居たおかげで、昔存在していた、当時最強の軍国家アルカナにも技術力で対抗できた。 その転生者は突飛なアイデアを思いついては、それを実行していた。 兵器から、子供を楽しませる玩具まで、その発想は多種多様だった。 それと同時に、その技術を応用したハンター装備も充実するようになった。 軽量かつ防御力、伸縮力の高いファイバー製スーツや、不可能とされてきた携帯電磁砲(ポータブルレールガン)など初心者でも安心して狩猟の出来る装備が整っている。 しかし、クリネはそんな最新装備には目もくれず、古き良き、魔鋼鉄(オリハルコン)特有の呈色を成すメイルに身を包み、よく鍛えられた銀の剣を握り、戦っている。 理由は、クリネ本人にもよく分からなかった。1つ挙げるとするなら、物心がつき始めた頃の記憶である。 __いいか、クリネ。お前は誇り高き*なんだ。誰がなんと言おうと、我が家の伝統を捨ててはならない。我が家は代々剣と鎧を好んで使ってきた、分かるな? 曖昧な記憶である。 誰に、何のために、いつ言われたのか、覚えていない。 だけど、不思議に頭に残っている。何故か、ぞんざいに出来なかった。してはならない気がした。 別にどこのメーカーがいいとかいう、こだわりは無い。 兎に角、何かの金属で出来た軽鎧や剣であれば、最低限の実力は出せる。 逆を言えば、それ以外の素材だと、重さに関係なく、動きが鈍る気がするのだ。 「へぇ、なんかいいな~」 「なんでそう思うんですか?」 「僕、小さい頃のこと、あんま覚えてなくて…」 「___」 クリネは、ルクの過去について知りたくなった。 小さい頃から、旅をしていたことぐらいしか知らない。 彼の特異な能力といい、彼には謎なことが多すぎるのだ。 けれども、今は聞くべきでないだろう。まだ出会ってから日が浅い。 さらにその時は、自分の過去についても話さなければいけなくなるだろう。 すると、 「あ、いたいた!新人さーーん!ん?あれれ?なんでクリネさんもいるんだ?」 前方の道から誰かが明るい声で此方に駆けてくる。 猫耳で、背が低く童顔。髪はブロンズのショート。そして特徴あるから察するに…… 「おっはようございまーす!いつでも元気なギルド職員、ラムレットちゃんでーす☆」
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