避難小屋の夜

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   予約しておいた山小屋には泣く泣くキャンセルの電話を入れた。この様子を見るに、明日は大いに道が荒れるだろう。三人で話し合った結果、明日は朝一で下山することになり私は心の内で肩を落とした。  晩御飯を済ませ、寝る時間になっても雨は止むことはなかった。 「まあ、こんな日もありますよね」  佐伯くんが気を遣って慰めてくれる。ともすると罪悪感に押し潰れそうになる私だったが、その言葉に少しだけ救われた。  山小屋の料理を楽しみにしていたかなのちゃんも、そんなことはすっかり忘れた様子で明日の荷物の整理をしている。そしてふと、窓際に転がっていた何かを手に取った。 「これ、何?」  てるてる坊主だった。白い布を丸めて作った、ごくスタンダードなものだ。  手のひらサイズのそれは、自立できずに手のひらの上でちょこんと横になっている。 「あ、かわいい」 「作ってきたんです。願掛けも大事ですからね」  照れ臭そうに答える佐伯くんに、私は密かに関心した。  佐伯くんはあらゆる面で用意周到だった。てるてる坊主も、ルート作りも、緊急時の避難場所の確認も。彼は普段からしっかりしている。それこそ、部長役の私以上に。 「……私も用意してきてたら雨、降らなかったかなあ」  独り言のつもりだった。だけれど、佐伯くんには聞こえてしまったようだ。  佐伯くんが隣にやってきて、小声で囁く。 「また、晴れた日に一緒に登ればいいじゃないですか。……最後、なんて言わないでください」 〝最後の登山なのにしまらなくてごめんね〟  先程、私が言った言葉。覚えていたのか。 「そうだね」  私は笑顔で頷いた。  
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